実は身近に300万人超 日本はすでに「移民社会」国士舘大学 社会学 鈴木江理子(1)

2020/2/7

「研究室」に行ってみた。

ナショナルジオグラフィック日本版

「日本の移民政策」を研究してきた国士舘大学文学部の鈴木江理子教授。NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」の副代表理事もつとめ、外国人の支援も行っている。
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。今回転載するシリーズのテーマは日本の「移民」。U22世代が新しい社会を築くためのヒントに満ちています。同じ時代、同じ社会を共に生きるという視点を通して、一人ひとりの人間の見え方が変わるかもしれません。

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2019年4月、日本の労働力人口が減るなかで在留資格「特定技能」が導入された。その一方、低賃金や長時間労働など、外国人労働者の過酷な実態が話題に上っている。日本に暮らす外国人たちは今、どんな状況に置かれ、どんな問題があるのだろうか。移民政策を専門とし、外国人支援にも取り組む鈴木江理子先生の研究室に行ってみた!(文 川端裕人、写真 内海裕之)

労働力人口が減っている日本では、「外国人材の活用」が重要になるという。

そういえば、最近、外国から来た(と思われる)人が日本で働いている姿をよく見かけるようになった。

ぼく自身の日常生活の範囲内で、一番目につくのはコンビニだ。徒歩圏内のとある店舗では東南アジア系の女性が、別の店舗では中東系の男性が深夜、レジを打ってくれる。「またおこしくださいませ」と流暢に言いつつ、両手をお腹に合わせて丁寧に腰を折る「コンビニ挨拶」も完璧だ。

彼ら彼女らは、どんな立場で働いているのだろうかと気になって検索してみると、コンビニの場合は留学生のアルバイトが中心だと知った。

その一方で、東京の私立大学で、3年間で1600人もの留学生の行方が分からなくなっているというニュースも検索にかかってくる。本来は勉学のために来日したはずの留学生たちが、大学には来なくなってどこかで就労しているらしい。近所のコンビニの留学生たちは、その点、大丈夫なのだろうかと心配になる。

さらに、留学生たちとそれほど年齢が変わらない若者たちが、「技能実習生」として来日しており、しばしば、とてつもない低賃金で違法に働かされているというような報道も多い。各地で低賃金や賃金未払いの問題が続発していたり、暴力を受けたり、セクハラを我慢せざるを得なかったりする人たちが後を絶たないようだ。2017年の厚労省の立入検査では、技能実習生が働く7割の事業所で労働基準法が守られていなかった。そういえば、かつて「研修生」が同じようなひどい目にあう話も聞いたことがあるが、それとどう違うのか、ぼくは今ひとつよくわからない。

法務省がつくった「特定技能」の外国人向けリーフレットの表紙画像。(出典:法務省ウェブサイト)

今年の4月からは、「特定技能」という新たな在留資格で就労する人たちが出てきていることも報道されている。これは、14の分野(外食、宿泊、介護、ビルクリーニング、農業、漁業、建設、造船・舶用工業など)で、これまで受け入れてこなかった「単純労働者」を迎え入れるものだという。

え? すでにある「技能実習」とどう違うの? と混乱する。

というのも、「技能実習」で問題が発生していると報道されていた事例の中には、農業や水産加工、建設といった「特定技能」と領域がかぶるものが多く、継続的に関心を持っていたわけではないぼくにしてみると、「同じ」に見えてしまったのである。

少しでも関心があって「外国人材」の問題を追っている人には呆れられるかもしれないが、ぼくはこの時点ではとても粗末な認識しか持っていなかった。とにかく「単純労働者」の本格的な受け入れとして、新たに「特定技能」の制度ができて、これからは、以前にまして「外国人材」が日本にやってくるのだろう、という理解だ。

ということは、日本も「移民社会」になっていくのだろうか。たくさん人が来るのだから、自然に考えるとそうなる。

しかし、よくよく調べると、政府は繰り返し「移民政策ではない」と主張しているようだ。多くの外国人に門戸を開きつつ、それが「移民政策ではない」というのはいかなることだろうか。もやもやする。

そんな折、国士舘大学文学部教育学科の鈴木江理子教授に話を聞く機会を得た。鈴木教授は、まさに「日本の移民政策」の研究者として、多くの著作・論考をものしている。また、「移住者と連帯する全国ネットワーク」というNPO法人の副代表理事をつとめ、現場での経験も深い。著作をいくつか読んだところ、まさにぼくが疑問に思っていたことが広く深く考察されており、ぜひお話を伺いたいと思った。