小泉氏の育休は当たり前 仕事と育児両立は世界の常識
ダイバーシティ進化論(出口治明)
日本の企業には今も、女性社員に対して出産のタイミングをよく考えるようアドバイスする上司がいる。だが仕事と出産をてんびんにかけるという考え自体がゆがんでいる。「仕事も出産も」というのが世界の常識で、子育てをバックアップする社会システムができていれば出産はしたいときにするのが一番幸せだ。
カップルで生活するなら相手は家族思いの人がいいだろう。家族思いの正体はオキシトシンだ。女性は出産の時に出るが、男性は子育てすることによって出る。いい男性をつくるには子育てをする以外にない。
こういう知識があれば、小泉進次郎環境相の育休は当然のことと理解できる。ニュージーランドでは現職の首相が在任中に出産して休みを取り、今はパートナーが面倒を見ている。去年のラグビーW杯では、オールブラックスのキャンプ地が大学のある大分で、観光客が大勢来ていた。彼らに首相のことを聞くと皆、誇りに思っているという。「彼女はスマートで賢く、判断に誤りがない。育休なんて何の問題もない。風邪で休んだのと同じだ」と。
賛否両論が沸き起こるのは、日本が世界に遅れた男尊女卑の国だからといえる。日本をいい社会にするため、経済を好転させるため、少子高齢化を克服するためにも今、一番に取り組まなければいけないのは男女差別の根絶であり、男尊女卑意識の払拭だ。
社会の常識は、日々の新聞やSNS、近所の人の話によってつくり上げられる。人間の意識は、勉強しない限り、その社会の常識を映すだけだ。だから仕事と育児の両立は当たり前、とするためには制度を変える必要がある。具体的にはクオータ制の導入や、性分業が根底にある「配偶者控除」と「第3号被保険者」の撤廃だ。仕組みを変えないと人間の意識は変わらない。
育児休業は留学と同じと見なし、給与は全額保証すればいい。賢くなって戻ってくるのだから。そうすれば男女とも安心して育休が取れる。最初の1年間は全額保証し、その後給付を減らしていけば、人は仕事に戻る。0歳児は最も育児コストがかかるので、政府としてもその方が合理的だ。
保育所は希望者全員義務保育にすれば待機児童は0になる。高層マンションができて小学校が足りないとニュースになるが、実際、小学校に入れなかった子供はいるか? 法律があれば自治体は対応するのだ。
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。
[日本経済新聞朝刊2020年2月3日付]
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