老後の幸せ、結局はお金次第?
脚本家、大石静さん
都内で自営業をしています。少しでも豊かになろうと毎日毎日働いてきましたが、60歳を目前に、もう疲れて意欲がわきません。スポーツクラブにも旅行にも行って、もちろん楽しいと思いましたが、結局はお金次第のような気がします。長い人生、修業と思うしかないのでしょうか。(東京都・50代・男性)
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わざわざ言うのも恥ずかしいですけれど、人の幸せのかなりの部分は、お金で買えますが、お金で買えない幸せも、あるにはあります。
例えば、好きな人と抱き合った瞬間の胸震える感覚などは、お金では買えません。どんなにお金持ちでも、モテない人は徹底的にモテませんからね。また、生まれたばかりの我が子の顔を見た時の幸福感など、お金で買えないことを、あなたもあれこれ体験なさってこられたのではないでしょうか。
しかし残念なことに、お金で買えない幸せは持続力が弱いのです。凄(すご)いお金持ちは、贅沢(ぜいたく)な家に住み、日々美味(おい)しいものを食べ、いい服を着て、いい車に乗り、一流の芸術やエンタメに触れることができ、海外旅行もプライベートジェットかファーストクラス。お金の威力で世界の一流の人と出会い、周りがかしずく、という感じで、その幸せはお金がある限り持続します。
あなただって、あなたより貧しい人から見れば、スポーツクラブの会員になれるだけで、とても幸せに見えると思いますけど、あなたはそれでは足りない訳ですね。もっともっと贅沢しないと、ステキな人生だと思えない。お気持ち、よくわかります。わかりますけれども、あなたが今の100倍の年収を得たとしても、やはりあなたは「まだ、足りない。満ち足りない。幸せじゃない」と思うんじゃないでしょうか? だから、これまでも毎日必死で働いてこられた訳でしょう?
まだ足りない、足りないと思うことこそが、あなたの生きるエネルギーだったのです。できるなら命終わるまで、お金お金と追いかけて生きる方が、あなたの人生はエネルギッシュになると思いますが、もう疲れてしまった。ん~、どうしましょう。
この先のことを無理やり考えれば……。
先のことは生きてみないとわかりませんけれども、気力や体力が衰えることによって、何か違う価値が見えてこないとも言い切れません。お金、お金と思っている今とは違う価値観です。
それが見えるか見えないかを楽しみにしつつ、今のところは「満ち足りない心と闘う修業」をしながら、日々を過ごすしかないですね。
[NIKKEIプラス1 2020年2月8日付]
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