佐々木蔵之介 ふらっと出た旅で出合った薩摩切子

蹴ろくろは、粘土を真上から見られないところも難しかったという。「中心がどこかわからないんです。映画の中で、佐輔の子どもに『これ、中心どこ?』と聞かれて、『中心は1個や』というセリフがあるんですけど、それは僕と陶芸の先生が交わしていた会話そのままなんですよ。監督がそれを聞いていて、そのままセリフになりました(笑)」

陶芸品も人も、ゆがみが「個性」になる

1月31日から公開中の出演映画は、2018年に公開されてヒットした「嘘八百」の続編となる「嘘八百 京町ロワイヤル」。佐々木さんは、うだつの上がらない腕利き陶芸家・野田佐輔を演じ、同じくくすぶり続ける口八丁の古物商・小池則夫(中井貴一)とともに「お宝」をめぐって大騒動を起こす。

「前作の撮影は16日間。寒い中、短期間で撮りきって、無事に公開されただけでも『良かったなぁ』という感じだったんです。だから続編ができるなんて、誰一人思ってなくて。続編の話を聞いたときは、『あの苦しい思いを、またするのか』というのが正直な僕らの気持ちでした(笑)。

今回も作陶シーンがありますが、明らかに前作よりも難易度が上がりましたね。監督が工房の隅にあった『蹴ろくろ(けろくろ)』を見つけて、使うことになったんですよ。これが文字通り、足で蹴ってろくろを回すので、なかなか難しい。ガーッと蹴り続けながら、指先に集中しなきゃいけないんですよ。稽古に行った次の日は、体中が筋肉痛になってました」

今回の「お宝」は、千利休の茶の湯の継承者で、歪(ゆが)みや傷に美を見いだした武将茶人・古田織部の幻の茶器。野田は試行錯誤しながらその偽物作りに挑み、悪徳古美術商らに一泡吹かせようとする。

(C)2020「嘘八百 京町ロワイヤル」製作委員会

「(中井)貴一さんがこの作品に入る前に、古田織部のお茶わんを持っている方にお会いして、本物を触らせてもらったんですって。そのときに『ああ……』と納得がいったと。形は歪んでいるけれども、それは適当に歪ませたんじゃなくて、実は機能性を持たせつつ歪んでいる。だから『手にぴったりきた』と。

人間も、歪んでいるからいいんじゃないですかね。歪みもまた、個性。今はみんな寛容じゃないところがありますから、歪んでいたり傷ついたりしていても、ちゃんと許してほしいなと思いますね。

貴一さんが『歪んでなきゃ、役者の仕事なんてできないよ。いろんな人を演じるんだから、まっすぐじゃできない』と言われたんですけど、本当にそう。まっすぐでキレイな人は、なかなかいない。僕も歪んでいて、台本でセリフに誤字脱字を見つけると、『このまま言ってやろう』とか思いますからね(笑)。まあ、それは極端な例ですけど。『このセリフを何とか笑えるようにできないか』『もっと違う読み方ができないか』と考えられるのも、歪みがあるから。そうやって角度を変えて考えて、答えを見つけたときに喜びを感じます」

「役者さんが、みんな達者なんですよ。しかも、おちゃらけて笑わせるのではなくて、真剣に、真っ正面から喜劇と向きあっている。今の時代に少ない、大人の喜劇になっていると思います」

旅に持っていくモノは「台本」

今や主演・助演を問わない活躍で映画やドラマになくてはならない存在だが、その出発点は舞台。90年代は劇団「惑星ピスタチオ」の看板俳優として活躍し、肉体一つで宇宙からミクロの世界まで表現する「パワーマイム」で人気を博した。

「あの10年間があったから、『個性的な役者』というふうに見てくれている方もいると思います。そう考えると、体を使ってバカやって良かったなあと思いますね。バカだけじゃなく、真剣にやってたんですけどね(笑)。

今も年1本は舞台をやるようにしていて、今年は5月にパルコ劇場でやります。体もだいぶ衰えてきたので、しんどいんですけど。でも、お客さんに良いものを見せたいので、体のメンテナンスには気をつけています。楽屋にもストレッチポールを持っていったり、加湿器をわざわざ持っていったりとか。まあでも、それはみなさんと変わらないと思います」

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