瞬発力で演じるのが楽しい

脚本の池端俊策とは、16年に放送されたNHKの連ドラ『夏目漱石の妻』でもタッグを組んでいる。会見で池端は長谷川について「人間の内面を表現できるピカイチの俳優」と評し、起用を強く希望していた。そんな池端の脚本に、長谷川も心を寄せている。

「池端先生の脚本は本当に繊細です。微妙な行間で表現が変わって、一筋縄ではいかない。白黒はっきりしていないんだけど、しっかりとした流れがある。本を読むと、先生が乗って書いていらっしゃるんだろうなと感じます。

光秀はとにかく黙っているんです。『…』がものすごく多い。斎藤道三(本木雅弘)に無茶なことを言われても、帰蝶(川口春奈)に何か言われても、『…』。そこを僕は埋めなくちゃいけない。楽しいけれど、難しいですね。光秀はよく選択を強いられるんですが、歴史的に見ると、光秀の判断が矛盾していることも多いんです。どう演じようかと考えていたんですが、池端先生は『五分五分で、どちらの可能性もあるんだと思うよ』と。最近はその心理や過程を演じることが面白くなってきて、本木さんがふんする道三の表情を見て、『僕もこう表現しよう』と瞬間的に決めるときがあります。

池端先生は、本能寺の変を起こした光秀から逆算しないでくれとおっしゃっていて、僕もそう心掛けています。美濃を守りたい、自分の血筋を大事にしたいという気持ちが根底にある、普通の青年なので。

僕自身、光秀にすごく感情移入しています。かわいそうだと思うんです、いろんなことを強いられて。光秀が有能な人間だからでしょうが、命令で敵国に入ったりする。そういう経験の数々があるからこそ、智将と呼ばれる人物になったんだろうなと、共感しています。

光秀は今の時代に求められるヒーローなのかもしれません。ときに、上司にはっきりものを言いますし、知性と品性で突き進む姿も頼もしく、現代の世の中にもいてほしい人物のつもりで演じています」

光秀の人生と切り離せない人物として、織田信長(染谷将太)の存在がある。

「光秀と信長は似ていると思います。信長のセリフで『俺は何者なのか分からない』『まだ自分は何者でもない』というのがあって、それは光秀も同じなんですよね。根本的なところで2人はシンパシーを感じているのだと思います。

染谷君はすごく素敵ですよ。親や家族の関係で悩み、孤独を感じさせる、今までとは違う信長像になっています。染谷君が持つ独特の雰囲気というか、ムードというか。『この人物には何かある』と思わせるものがある。胸の内にマグマのようなものを持っていながら、表面的にはさらっとしたたたずまい。今のところ、役の関係性を考えて、お互いに普段の距離をあまり縮めないようにしています。でも今後はどうでしょうか(笑)。

1年を通して1人の人物を演じられるのは、大河ドラマだからこそ。その主役を演じさせてもらえるという、これほど役者冥利に尽きることはないです。『今日はもう嫌だ』ってなるときもありますけど(笑)、次の日早起きして、広大で景色がいいところにオープンセットを作ってもらって演じる幸せはなかなかないです。これからも撮影が続きますし、大変なことも起きるかもしれないけど、やり遂げたら、俳優人生でもう怖いものはなくなるんじゃないかと思っています。ひるむことなく、池端先生が考えている新しい明智光秀をしっかりとお見せします」

『麒麟がくる』
 『いだてん』に続き、4Kでの撮影が行われる。戦国大河での4K放送はこれが初めて。「NHKのドラマではわざとフィルムっぽくぼかすことが多かったのですが、今回の映像作りでは、くっきり色味を出しています」と制作統括を務める落合将氏。衣装デザインを黒澤明の娘・黒澤和子が手掛ける。各人にメインカラーを決め、衣装でも個性を際立たせていくという。(放送中/日曜20時/NHK総合ほか)

(ライター 田中あおい、内藤悦子)

[日経エンタテインメント! 2020年2月号の記事を再構成]

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