高橋一生と蒼井優が夫婦役に 映画『ロマンスドール』

日経エンタテインメント!

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ラブドールの造形師として働き始めた哲雄(高橋一生)は、美術モデルの園子(蒼井優)と出会い、一目惚れして結婚する。だが、仕事にのめり込むうちに園子との間にすれ違いが生じ、ついには夫婦関係の危機に。その時、園子はある秘密を打ち明ける…。『百万円と苦虫女』(2008年)、『ふがいない僕は空を見た』(12年)などのタナダユキ監督が、08年に雑誌『ダ・ヴィンチ』で連載した自身初の小説を映画化した。

『ロマンスドール』 高橋一生と蒼井優は『リリィ・シュシュのすべて』以来19年ぶりの共演。渡辺えり、浜野謙太、三浦透子、大倉孝二らが出演(公開中/KADOKAWA配給) (C)2019「ロマンスドール」製作委員会

物語を着想したのは、04年の監督作『月とチェリー』の企画段階と同じ頃だった。

「『男の理想の死に方は腹上死だ』という男性向け雑誌の記事を見て、『女も同じじゃない?』と思って(笑)。そんなときにラブドールの存在を知って、人形としてのクオリティーの高さに驚いたんです。すごい職人技なのですが、カテゴリーがアダルトグッズとなるため、日の目を見ないかもしれない。それでも高い志でものづくりをする人たちに尊敬の念と興味を持ちました。もう1つ気になっていたのが夫婦の関係です。夫婦って、仲が悪くても別れなかったりするじゃないですか。赤の他人の2人が一緒に生活することの困難から生まれる様々を描いてみたいと思ったんです」

かくして「ラブドール職人が自分の仕事を隠して夫婦になる」というストーリーラインに。しかし当時はラブドールの認知が低かった。「その頃の私は年齢も若かったので、大学生の話(『月とチェリー』)がいいだろうと、こちらはボツに。それを小説にしたのが08年です」。再び映画化の企画が動いたのは、17年。ラブドールの展示会を見たことがきっかけだった。

「長蛇の列ができていて、その半数以上が女性でした。ドールの認知度も高くなり、女性は美しい造形物として捉えている。今なら映画にできるんじゃないかとプロデューサーに話したところ、一気に企画が進みました」

力を抜いて冴える演出力

哲雄には高橋一生、園子には蒼井優と、よく知る2人を配した。

「一生さんはどうだろうと思っていた矢先、資生堂のショートムービーの仕事でご一緒して。お芝居も素晴らしく、手先も器用なので、哲雄を魅力的な人物にしてくれると思い、オファーしました。蒼井さんは『百万円と苦虫女』に主演していただいた大事な女優さん。小説版を早々に読んで『面白い』と褒めてくれましたし、ちょうど今の彼女の年代の物語なので、最初に相談しました」

撮影は「デジタルのほうが仕上げも予算もラク。でも粗くざらついた質感に人間味がある」とあえて全編16ミリフィルムで敢行。演出では「力を入れないこと」に気を配った。

「気合いを入れると緊張が周りに伝わって良い結果にならないと思ったので、なるべく毎日淡々と、粛々とお芝居を撮っていくことを心掛けました」

そうして切り取られた、俳優たちの自然体の演技が魅力的だ。原作にない行動を描いて心情を映像化していく演出力も冴える。『月とチェリー』『ふがいない僕は空を見た』などでも見せてきたベッドシーンも、大胆かつ美しい。完成作は、夫婦のラブストーリーとしても職人のドラマとしても味わい深いものになった。

「昔も今も、目の前でいいお芝居を見られたときに、この仕事をやっていて良かったなと思います。『ロマンスドール』では、毎日、それを感じていました。この作品を撮って、『やっぱり夫婦って不思議だな』と思いました。今後、また別の夫婦を覗いてみたくなるときが来るかもしれないなと思っています」

自主映画『モル』(01年)でデビューして約20年。最近ではドラマでも活躍する人気監督の、今後の道しるべになりそうな好編だ。

タナダユキ
1975年生まれ、福岡県出身。2001年『モル』でPFFアワードグランプリ。08年『百万円と苦虫女』で日本映画監督協会新人賞を受賞。近作に『四十九日のレシピ』(13年)、『ロマンス』(15年)、『お父さんと伊藤さん』(16年)など。『昭和落語元禄心中』(18年/NHK)、『夫のちんぽが入らない』(19年/Netflix)ほかドラマ演出も手掛ける。

(ライター 泊貴洋)

[日経エンタテインメント! 2020年2月号の記事を再構成]

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