名脇役の古舘寛治と滝藤賢一 ドラマに念願のW主演
『きのう何食べた?』などの話題作を生んできたテレビ東京の金曜深夜枠の新作が、『コタキ兄弟と四苦八苦』。名脇役として評価されている古舘寛治、滝藤賢一が念願のダブル主演を果たした。『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)や『アンナチュラル』(18年)を手掛けた脚本家・野木亜紀子のオリジナル作品となり、映画『天然コケッコー』(07年)や、連ドラ『山田孝之のカンヌ映画祭』(17年)などの山下敦弘監督が全12話を演出しているのも話題だ。
真面目すぎてうまく生きられない兄・古滝一路(いちろう、古舘)と、ちゃらんぽらんにしか生きられない弟の古滝二路(じろう、滝藤)。無職の2人が"レンタルおじさん"を始め、「定年退職した夫の様子がおかしい」「友人が孤独死しているのではないか」などといったクセのある案件を請け負っていく。孤独な依頼人たちの無茶ぶりに四苦八苦する兄弟の姿を描く、人間賛歌コメディだ。
この作品が誕生したのは、古舘と滝藤が「ダブル主演でドラマが作れないか」と盛り上がったところに端を発する。プロデューサーの濱谷晃一氏は17年の春に、両人から相談を受けたという。「バラエティ班からドラマ班に異動になって間もない14年に、古舘さんとは『ワーキングデッド~働くゾンビたち~』、滝藤さんとは『俺のダンディズム』で、個々に主演の連ドラを作っていました。古舘さんも滝藤さんも、『バイプレーヤーである自分たちのソロの主演作が作れたのだから、ダブル主演なら余裕で可能』と思っていた節があって(笑)。最初にお電話をもらったとき、『売れっ子脚本家も興味を持ってくれている』とだけ言われてお2人に会ったら、野木亜紀子さんがオリジナルで書いてくれそう、とのことでした」(濱谷氏、以下同)
古舘は出演した『逃げ恥』で野木と親交があり、今回の作品への参加を頼んで、好感触を得ていたのだという。一方で、その頃はテレビ東京の深夜ドラマ枠は2つしかなく、俳優発信の企画を通すことは簡単ではなかった。「社内調整に光明が見えて、『アンナチュラル』のヒットで野木さんオリジナルへの期待も高まりました。ところが、今度は古舘さんがNHK『いだてん』のメインキャストに選ばれ、向こう1年半の出演が難しくなってしまった。どうしようと思いましたが、野木さんも放送ができるまで待つと言ってくださって」
放送前に3人の格がアップ
その間、野木は次々と賞を受賞し、古舘は『いだてん』で知名度を上げ、滝藤も連続テレビ小説『半分、青い。』(18年)の父親役で全国区の顔となり、3人がスケールアップ。「結果的に最高のタイミングでの放送になりました(笑)。撮影は19年の10月からでしたが、古舘さんと滝藤さんは8月から本読みを重ねていたんです。舞台稽古でも2か月前からなんて珍しく、映像ではまずないこと。それほどの情熱をこの作品に注いでくれています」
山下監督が連ドラ全話を演出するのは今回が初めてとなる。「最初に野木さんから山下監督の名前が挙がりました。野木さんの作品はテンポ良く見せる、テレビドラマらしいカット割りの印象がありましたが、山下監督は引きの映像で展開していく、オフビートな作風の持ち主。僕も山下監督の大ファンなので、テイストの違う2人のタッグをぜひ見たいと思いました」
山下監督に全話を担当してもらうのは、濱谷氏がこだわったところ。「野木さんが1人で書かれた作品なので、監督も1人にして世界観を統一したかった。山下監督はテレビドラマの経験があまりないので、全12話を自分だけでやることに不安があったようですが、結局引き受けてくださいました。ちょっと後悔してましたけど(笑)。撮影と編集を並行して行うのは難しいとおっしゃったので、実は決まっていた放送クールもずらしたんです」
濱谷氏は本作の完成度に自信を見せる。「完成した第1話と第2話を見たら、想像以上の見応えでした。おじさん2人のほほ笑ましいコメディとしても楽しめますが、依頼主の悩みや孤独がしっかり描かれている。特に後半戦は、縦糸が結実する、素晴らしい展開になっています。深夜の限られた予算で作っていますが、贅沢なヒューマンドラマになっていますので、12話全部見てほしいです」
(ライター 田中あおい)
[日経エンタテインメント! 2020年2月号の記事を再構成]
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