若手二人は内心してやったり。「おともします」と連れて行かれたのが三宅さんが通うすし屋だった。「好きなもの食べていいぞ」と言われ、岸谷さんが「じゃあウニ」。すぐに三宅さんから「真っ先にウニはだめだろ。まずは白身から」と突っ込まれるのを見てヒヤヒヤ。本当は「自分もウニ」と続こうとしていたとはおくびにも出さず、三宅さんの言う通りに注文した。

座長は雲の上の存在。稽古場では言葉をなかなか交わせないが、一緒に食べていると、話を聞ける貴重な時間だ。ごちそうしてもらうばかりだったが、後に一人前になってようやく三宅さんを東京・赤坂の和食店に招くことができた。土鍋の鯛(たい)めしに季節の刺し身。岸谷さんと「座長、きょうはおごらせてください」と頭を下げた。三宅さんは「おまえらにおごってもらうとはなあ」。少し近づけた気がした。

実家はすし屋だった(三浦秀行撮影)

岸谷さんとSETを巣立つと決めたとき、決起集会のつもりで連れだって食事に出かけた。まだユニットの名前すらつけていない二人だが、あまり考えずにふらりと入ったのが東京・新中野あたりのしゃぶしゃぶ店だった。

鍋をつつき、独立したらあんなことをやってやろう、こんなことはできないと熱を込めて話していたとき突然、岸谷さんが箸を止めて言った。「ちょっと待て。俺たち自分の金でしゃぶしゃぶ食ってる」。いつも先輩におごってもらい、カップラーメンで食いつないできた。それが人並みにしゃぶしゃぶを食べていることにハッと気づいた。

仕事が入り、役者として名前を覚えられはじめ、次のステージに向かう自分たち。期待と不安の中で口にした肉は一人前を意識した格別の味だった。

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絶品、博多の鮭明太
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