一人前になれた気がした「しゃぶしゃぶ」 寺脇康文さん食の履歴書

岸谷五朗さんと組む演劇ユニット「地球ゴージャス」は結成25周年(三浦秀行撮影)
岸谷五朗さんと組む演劇ユニット「地球ゴージャス」は結成25周年(三浦秀行撮影)

映画やドラマでは熱血漢の刑事や家族思いの父親の役、情報バラエティー番組では司会と多彩な顔をみせてきた俳優の寺脇康文さん(57)。役者としての階段を上るのを意識した場面には、しゃぶしゃぶがあった。

食の記憶をたどると、駄菓子とすしに行き着くという。生まれは大阪。実家のすぐ近くには駄菓子屋があった。家族ぐるみの付き合いで、かわいがってくれた店主のおばちゃんは「やっちゃん、これ食べてき」。親が後で代金を払っていたのだろうが、幼い身には「お菓子食べ放題の夢のような場所」。甘いチョコレートやアメ、サイダー味のシュワッとした食感のアイス。心躍らせて駆け込んだ日々を思い起こす。

実家はすし屋だった。「握るのはおふくろ。女性職人って当時は珍しかったと思います」。すしを握る母の姿はキリッとして格好良かった。「テラのところ行けばすしを食べられるぞ」と友達が集まる。マグロにイカ、エビ。おやつ代わりのすしはキラキラと輝いていた。誇らしかった。

「小さい頃にぜいたくしすぎたんですかね」。俳優の長い下積み時代には食べるのがやっと。アルバイト先に選ぶのはもっぱら賄い付きの居酒屋やスーパー。しゃぶしゃぶ店の賄いで口にする肉が一番のごちそうだった。

門をたたいたのは三宅裕司さん主宰の劇団「スーパー・エキセントリック・シアター(SET)」。食えない時代の頼りはやはり先輩だ。後に一緒に独立して演劇ユニット「地球ゴージャス」を結成する岸谷五朗さんと稽古場の三宅さんを観察。座長が帰るタイミングを見計らって視界に入り込み「何か食べていくか」の一言を引き出した。