「現場も両利き」トヨタのすごみ ハーバードの視点ハーバードビジネススクール名誉教授 マイケル・タッシュマン氏(下)

ハーバードビジネススクール名誉教授のマイケル・タッシュマン氏 (C)Kent Dayton for Harvard Business School
ハーバードビジネススクール名誉教授のマイケル・タッシュマン氏 (C)Kent Dayton for Harvard Business School

世界トップクラスの経営大学院、ハーバードビジネススクール。その教材には、日本企業の事例が数多く登場する。取り上げられた企業も、グローバル企業からベンチャー企業、エンターテインメントビジネスまで幅広い。日本企業のどこが注目されているのか。作家・コンサルタントの佐藤智恵氏によるハーバードビジネススクール教授陣へのインタビューをシリーズで掲載する。シリーズを締めくくる今回は、組織行動の専門家、マイケル・タッシュマン名誉教授が日本のビジネスパーソンに向けて、両利きの経営の実践を呼びかける。

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佐藤 「両利きの経営―『二兎を追う』戦略が未来を切り拓く(Lead and Disrupt: How to Solve the Innovator's Dilemma)」が日本企業の経営者の間で話題となっているのは、多くの日本企業が抱える課題に対して、具体的な解決案を示しているからだと思います。今、世界の大企業の経営者が抱える共通の課題は何ですか。

タッシュマン 大企業の経営者が、両利きの経営を実践しようとすると、しばしば「新領域の探索(explore)」部門と「成熟部門の深化(exploit)」部門との間で「対立」や「矛盾」が生じます。新規事業とコア事業では、遂行するためのスキル、組織能力、戦略が全く異なることが多いからです。経営幹部は両部門間のあつれきに直面しながらも、共通のビジョンを示しながら、それらを両輪でまわしていかなくてはなりません。

ところが多くの経営幹部は両者の矛盾にどのように対処していいのか、わからないまま経営を行っています。ここに根本的な問題があると思います。日本の大企業も同じ課題を抱えているのではないでしょうか。

経営者のコミットメントと支援が不可欠

佐藤 本書では、「両利きの経営を成功させるためには、経営者のコミットメントと支援が不可欠である」と述べていますが、これは具体的にはどういう意味ですか。

ハーバードビジネススクール名誉教授 マイケル・タッシュマン氏 (C)Kent Dayton for Harvard Business School

タッシュマン CEO、CFO、COOなどのCレベルやゼネラルマネジャーなど、最高責任者の支援がない限り、「新領域の探索」と「成熟事業の深化」は両立できません。なぜなら通常、新規事業部門は、成熟部門から「ただのお遊び」「私たちの部門を脅かすもの」、「お金の無駄使い」などと否定的に見られることが多く、場合によっては潰されてしまう恐れがあるからです。

「新領域の探索」と「成熟事業の深化」は、相矛盾する戦略です。これを両輪でまわしていくには、経営幹部が「私たちの企業は何のために存在しているのか」「私たちの仕事はどのように社会に役立っているのか」を、両方の部門に何度も伝えていかなくてはなりません。両部門が対立しないようにするには、共通のアイデンティー、共通のビジョンを認識してもらうしかありません。

中でも特に重要なのが新規事業開発部門のリーダーです。この部門のトップは社内でも信頼されている人でなくてはなりません。新規ビジネスに失敗はつきものですし、特に今の時代はやってみなければわからないビジネスがとても多い。そのため「この人なら失敗を重ねても必ず何かやってくれる」「この人なら失敗から何かを学んでくれる」と納得できるようなリーダーでなくてはならないのです。そして経営者はそのリーダーを全力で支援しなければなりません。

佐藤 現在、日本の大企業の中には大企業病による長い停滞を抜け出し、V字回復に成功した企業もあります。これらの企業が再び、「イノベーションのジレンマ」に陥らないようにするにはどうしたらいいのでしょうか。

タッシュマン それは素晴らしい質問ですね。今、成功している企業が、成功に甘んじることなく成長し続けるにはどうしたらよいか。それには、両利きの経営を何度も何度も何度もやり続けることです。これ以外に方法はありません。

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