作家・中島京子 初の近未来小説で描く現代への違和感

デビューから15年超、中島京子には映画人のファンも多い。認知症の父を看取った経験を反映した『長いお別れ』は中野量太監督により映画化。「変えてもらって構わないが、原作のユーモアや“おかしみ”だけは残してほしい」とだけ伝えた結果「すごくいい映画になった」と喜ぶ。山田洋次監督が映画にした『小さいおうち』も大満足の様子だ。現在や少し前の時代を手掛けることが多いが、短編集『キッドの運命』で初の“近未来”に挑む。

中島京子 1964年、東京都生まれ。東女大文理卒。出版社勤務を経て渡米。帰国後の2003年に『FUTON』で小説家デビュー。10年に『小さいおうち』で直木賞受賞。16年に『長いお別れ』で中央公論文芸賞や日本医療小説大賞を受賞する

2度の原発事故を経て首都が福岡に移った後の世界を描く表題作など全6話。きっかけは約2年前、「小説すばる」30周年記念企画「30年後の未来へ」での短編だった。

「そのときに書いたのが表題作『キッドの運命』で、実は、以前に書いた掌編を元に膨らませたものだったんです」

2011年に日系アメリカ人作家ジュリー・オオツカの作品『屋根裏の仏さま』に寄せて、英国の世界的文芸誌「GRANTA」のWEB版に掌編を書き下ろした。「オオツカの作品中の、写真花嫁たちが横浜から出航する場面にインスピレーションを得て、近未来にヨコハマから出航するロボット『ニッポンジン』の話にしました。それをベースに短編『キッドの運命』を書いたら、近未来の作品をさらにいくつか作れそうで」

日本からロボットが送られる物語『ニッポンジン』の背景にあったのは、「日本人のイメージに込められた“均一性”や“同調圧力”みたいなものへの不信感でしょうか」と創作の核を口にする。絶滅危惧種を復活させる技術、高層マンションの廃墟化、子宮移植、ヒキコモリ……。最新短編から透けるのは、現代社会に感じる違和感や問題意識だ。

『キッドの運命』 田舎の小さな動物園の園長が絶滅した生き物を復活させていた『ベンジャミン』、廃墟と化した高層マンションでの人間と鳥の関わりを描く『ふたたび自然に戻るとき』など、全6編(集英社/税別1500円)

「現代は複雑なので、今の時代を描こうとするときに、いわゆる“現代のリアリズム”ではリアリティーを感じにくくなる場合があるんですよね。そういったときに、これまでは過去を書いてきたように、未来を舞台にしていくことはあると思うんです」

「“描きたいもの”と“どんな設定で書くか”は、密接な関係にあります。『かたづの!』という作品も、あの書き方でないとうまくできなかったんですよね」

江戸時代の女城主を描いた『かたづの!』は、城に伝わる“かもしかの角”(かたづの)が物語の語り手に。「まさか、角がしゃべり出すとは、自分でも思っていませんでした」という作品は各方面で高い評価を得た。

「今回、近未来の作品集を書き上げたことで、自分の中に新たな経験値が加わった実感はあります。『これを使えば別のものが書ける』という新たな技術は、どんどん蓄積していきたいです。例えるならば、料理人としていろいろな包丁を持っていたいといった感覚でしょうか。持っていないと使えないですし、使ってみないと使い方もうまくなりません」。おっとりとした笑顔での受け答えの端々から見えたのは、作家としての強い意欲だ。

(日経エンタテインメント!1月号の記事を再構成 文/土田みき 写真/鈴木芳果)

[日経MJ2020年1月24日付]

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