ミュージカルの世界的ヒット作で、日本でも劇団四季の舞台で長く親しまれている『キャッツ』。それが初めて実写映画化されて、日本でも1月24日から公開が始まった。その見所を紹介しよう。

満月が輝く夜、若く臆病な白猫ヴィクトリアがロンドンの片隅のゴミ捨て場に迷い込む。そこには人間に飼いならされることを拒否し、したたかに生き抜く「ジェリクルキャッツ」と呼ばれる猫たちがおり、年に1度の舞踏会が開催されようとしていた。舞踏会では、生まれ変わることができる1匹が選ばれる。猫たちは自身の生きざまを歌やダンスで表現していく一方、ヴィクトリアも自分らしい生き方を見つけていく――。
ミュージカルの金字塔『キャッツ』の映画版キャストは映画、音楽、ダンスなど多彩な分野から選ばれた。主人公ヴィクトリアに抜てきされたのが英国ロイヤルバレエ団プリンシパルのフランチェスカ・ヘイワード。彼女の目線で物語が進んでいくのは映画オリジナルの設定だ。猫たちのリーダー、マンカストラップを演じるのが、ミュージカル『パリのアメリカ人』で主演を務めたロビー・フェアチャイルド。かつては美しい娼婦だった猫で、名曲『メモリー』を歌うグリザベラには、『ドリームガールズ』でアカデミー賞助演女優賞を獲得したジェニファー・ハドソン。ほかに人気シンガーのテイラー・スウィフト、英国の名優イアン・マッケランらが出演する。
なかでも注目は、1981年のミュージカル初演に出演予定だったが、ケガで降板した因縁のあるジュディ・デンチ。本作で演じるのは老猫のオールド・デュトロノミーだ。猫たちが敬う長老で、新しい人生を送る猫を選ぶ舞踏会の主催者。ミュージカル版では男性が演じる役だが、彼女のために設定を変更したといえそうだ。
新たな楽曲を書き下ろし
ミュージカル版の作曲を手掛けたアンドリュー・ロイド=ウェバーが映画版でも作曲を担当。テイラー・スウィフトと共同で新たな楽曲『Beautiful Ghosts』も書き下ろしている。「脚本はヴィクトリアの視点で描かれているので、彼女のための歌が必要だと話した。物語の中で重要な核となっている部分だ」(ウェバー)。劇中ではヘイワードが歌うが、スウィフトが歌うバージョンがエンドクレジットで流れる。
監督はミュージカルの映画版『レ・ミゼラブル』(12年)で実績のあるトム・フーパー。本作の魅力を「タイムリーで幻想的なミュージカルだ。贖罪と多様性の受容の大切さを説いている」と話す。
人間がふんする猫の毛並みを最新CG技術でリアルに表現したほか、ベッドやドア、階段など猫目線で作られたセットは通常の3~4倍のスケール感。『キャッツ』の世界観をぜいたくに作り上げた。
日本とドイツでしか製作を許可されなかった吹替え版のキャストにも注目したい。ミュージカル経験のある実力派俳優を起用し、葵わかなが主人公のヴィクトリア、山崎育三郎がマンカストラップ、大竹しのぶがオールド・デュトロノミーを演じる。
(ライター 相良智弘)
[日経エンタテインメント! 2020年2月号の記事を再構成]