長く働き続けたい? ならば女性こそ管理職を目指そう『女性管理職1年目の教科書』 野見山玲子氏

そもそもライフイベントは女性に限った話ではないというのが、野見山氏の見方だ。育児や介護などのライフイベントはもはや女性だけが担う時代ではなくなっている。パートナーが互いにサポートし合う「ONE TEAM」的な向き合い方が一般的になるなか「能力を発揮してチームに活躍してもらううえで、性別は関係ない」(野見山氏)。人生100年時代を迎えて病との向き合い方はさらに重要度が増している。パートナーが病気になった場合、女性が家計を支える役割を担うケースも想定される。「マネジメントスキルを養って企業の中核で働く女性は、パートナーの転職や治療なども支えられる。互いに立場を入れ替えながらライフイベントを乗り越えていくのは、様々な夢をあきらめずに済む働き方」という。

異性のメンターを見つける意味とは

まだ女性管理職が必ずしも多くない現状では「気軽に相談できるメンターを持ちたい」(野見山氏)。女性の気持ちが分かる同性の先輩がよいのではないかと考えがちだが、野見山氏が勧めるのは「男性の先輩や上司」。自分の立場が脅かされるといった縄張り意識を持たずに、率直な助言をくれるからだ。「自分では気づきにくい別の思考回路や価値観に基づく知見が得られる点でも、異性のメンターを見付けておきたい」という。古い企業ほど男性的な考え方が主流になっていることが多いだけに「男性メンターの助言を手がかりに、女性の自分が別の角度から貢献できる方法を見付けやすくもなる」という。

かつてもてはやされた、仕事もプライベートも完璧にこなす「スーパーウーマン」は目指さないことを勧める。「無理に背伸びして、燃え尽きたりがっかりしたりするのは、ダメージが大きい。『最高』を目指すのではなく、できる範囲で納得できる自分像を見付けていくほうが自然体で続けていきやすい」という。窮屈な働き方を避ける意味から、将来の目標となる「ロールモデル」を探すことも勧めない。資質も立場も異なる誰かの背中を追うよりも、「自分と向き合い、自分にとってハッピーな働き方を探すほうが無理がない」と気張った背伸びを戒める。

管理職を選ぶ道を野見山氏が女性に勧めるのは、「自分の成長を実感しやすいから」でもある。決定権を持たない立場で働く場合の仕事環境と、管理職の立場で見渡す「景色」はかなり見え具合が異なる。自らの経験を振り返って「部下だった頃は窮屈に思えた『小さな世界』も、管理職になってからは『自分の力で変えられる』と感じられ、がぜん仕事が楽しくなった」という。実際に成果が出始めると、自分も成長できた実感を得られた。「報酬ややりがいなどの面でも得られるプラスは大きく、長く働き続けていくモチベーションにもつながる」(野見山氏)

時間マネジメントの幅を広げる

一時期、もてはやされた「ワークライフバランス」という言葉に疑問を呈す。仕事とプライベートを切り離して、両者のバランスを保つようなイメージを思い浮かべるからだ。仕事がプライベートを侵食・圧迫するような働き方が好ましいわけはないが、両者を分断して考える線引きにも違和感を覚えるという。「時間には境目がなく、仕事と生活を完全に切り分けるのはむしろ不自然。限られた1日をしなやかに融通するスタイルのほうがストレスを感じにくい。管理職になって時間マネジメントの幅を広げれば、かえって時間にしばられにくくなる」と野見山氏は管理職ポストを生かした賢い「時のやりくり」を提案する。

出産や子育て、闘病などを経て職場に復帰する女性が増えている。新たな学びや他社勤務、ボランティアなどの経験を携えて、以前の勤め先に戻るケースも相次ぐ。ライフイベントと上手に折り合いを付けながら働き続けようと試みる女性たちは、その視野の広さ、懐の深さなどの面でも「企業の宝」と呼べる。管理職に就いてもらえれば、さらに働きやすい環境づくりに知見を役立ててもくれるだろう。「ライフイベントで離職させて、そのまま失ってしまうのは本当に惜しい」(野見山氏)。女性が働きやすい職場は、誰にとっても働きやすいはずだ。女性管理職の問題は、すべての働き手の問題でもあるだろう。

野見山玲子
テラス社長兼最高経営責任者(CEO)。明治薬科大学薬学部卒。薬剤師。早稲田大学ビジネススクールでMBA(経営学修士)取得。 国立がん研究センター研究所でがん研究、東京大学医学部大学院で医学教育研究に従事。外資系商社、メルクセローノ、アラガンジャパンを経て現職。

女性管理職1年目の教科書

著者 : 野見山 玲子, 斉藤 麻子
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 1,650円 (税込み)

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