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グレタさん育んだスウェーデン 保育園から民主主義

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NIKKEI STYLE

気候変動への行動を一人で起こし、多くの若者たちに影響を与えたスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん。全世界で気候変動の危機感を訴える若者たちは増え続けています。一方、日本で中学~高校生世代といえば、流行には敏感で学業にも熱心なものの、社会活動に参加する子どもはまだ少数派です。その違いには、どのような背景があるのでしょうか。10年前に家族でスウェーデンへ移住し、翻訳家や現地高校の教師として活動している久山葉子さんに、現地の高校生の様子や子育ての違いについて、リポートしてもらいました。

高校生のグレタさんの影響で人々が行動を変えている

国連気候行動サミットでのスピーチで、日本でも一躍有名になったグレタ・トゥンベリさん。2020年1月21日、スイスで開幕した世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に参加し、ここでも存在感を見せつけた。彼女がスウェーデンで最初に注目されたのは、2018年の夏の終わりだった。当時15歳だったグレタさんは、8月20日から連日、「環境のための学校ストライキ」というプラカードを掲げて、国会議事堂の前に座り込んだ。ちょうど長い夏休みが明けて、新年度が始まる時期で、グレタさんは中学3年生に進級するところだった。国会議事堂前で彼女を取材するマスコミの数は日に日に増え続け、座り込みが始まって2週目にはスウェーデンでは皆が知る存在になっていた。

ご存じの通り、スウェーデンはもともと環境問題に対する関心度が高い。猛暑の夏がくれば「地球温暖化のせいだ」と危惧するし、温室効果ガスの排出量が多い畜産業で生産される肉を使った料理を避けたいという声に応え、今はたいていの学校で給食にベジタリアンメニューがある。グレタさんの行動力に感化され、この国の環境意識はさらに高まった。

しかしグレタさんが与えた影響はそれでは終わらなかった。2019年には、9月にニューヨークで行われる国連気候行動サミットに参加するために、飛行機を使わずにヨットで大西洋を横断することを発表したのだ。まさかそこまでやるとは。スウェーデンでは「Flygskam」(フリーグスキャム、飛行機を使うことへの恥)という単語が登場し、夏休みは列車でヨーロッパを周遊することが急にトレンドになり、飛行機会社の広告も今まで安値重視だったのが、いかに環境に配慮しているかというのをアピールする路線に変わった。私の周囲でも国内の旅行・出張であれば飛行機ではなく列車を選ぶことが増えたし、グレタさんの行動で社会の意識が着々と変わっていくのが感じられた。

高校生から気軽に政治活動ができるスウェーデン

ところで、スウェーデンにグレタさんのようなティーンが現れたのは、偶然ではないように思う。彼女ほど行動力のある子は確かに珍しいが、この国では普通の若者たちも「自分たちが社会を変えられる」という意識を持って生きている。

実際に行動に移したいと思う若者には、各政党の青年部に入部するという選択肢がある。高校生で政治活動なんて想像がつかないかもしれないが、スウェーデンではクラブ活動のようなノリで、「バンドやっています」とか「サッカーチームに入っています」というのと同じ感覚だ。私が勤めている私立高校でも、毎年各学年に数人は青年部に所属している生徒がいる。どの党に所属するのかはばらばらで、本人が自分の理想にもっとも近いと感じるイデオロギーを掲げる政党を選ぶ。

青年部の中心メンバーは与野党に関わらず高校生から大学生くらいだが、例えば民主党の青年部は12歳から入部できるし、左翼党に至っては年齢の下限はない。選挙権を得るのは成人する18歳からだが、同時に選挙に出馬することもできるようになる。そのため、「18歳の市議会議員誕生!」というニュースを目にすることがある。市議会のほうも、若者の意見を積極的に取り入れているという姿勢をアピールしたいのだろう。

今日は学校の昼休みに食堂の前で、左翼党の青年部に所属する高校生たちが勧誘活動を行っていた。興味をひかれて足を止めた生徒に、自分たちの思想や活動内容を紹介している。この日彼らがアピールしていたのは、やはり環境問題、そして人種差別をなくしたいという熱い思いだった。また左翼党が推進している「一日6時間労働」政策のキャンペーンのために、パッケージに大きな字でSEX(スウェーデン語で6)と書かれたコンドームも配っていた。生徒たちは恥ずかしがる様子もなく、「あら、無料でもらえてラッキー」という表情で受け取っている。

「自分たちが社会を変えていけると思う?」「もちろん!」

勧誘活動中の二人に、「自分たちが社会を変えていけると思う?」と尋ねると、「もちろん! というか、絶対に変えたい!」という元気な答えが返ってきた。そもそも彼らは、どういうきっかけで「自分も社会を変えられる」と思うようになったのだろうか。

「小学校のときから学校には生徒会があったし、何かを変えたいと思えば、そこで意見を言えばいいと分かっていた」と話してくれたのは、市内の私立高校の2年生、リーア・ギルベットソンさん(17歳)。

スウェーデンの場合、市民運動が盛んだったという歴史背景も大きいとリーアさんは言う。19世紀半ばに始まった労働運動では、労働者がストライキを行い、労働組合が結成され、力を強めていった。現在のスウェーデンの労働環境が良いのは、今でもこの労働組合の力が非常に強いからだ。1960年代に勢いを増した女性解放運動も、男女平等先進国スウェーデンを形成した大きな要素だ。今の高校生は、国民が自国をつくってきた過程をはっきり意識しているようだ。

若者が社会を変えた例はいくつもある

同じ私立高校の2年生マキシミリアン・ネースホルムさん(17歳)は、最近若者が社会を変えた例を幾つも教えてくれた。2019年の9月7日には、ヨーテボリの化石燃料の輸入ターミナルで450人規模のデモ隊が12時間にわたって輸送トラックの出入り口を封鎖し、ターミナル拡張工事の取りやめを要請したという。「これをやっていなかったら、あと40年長く化石燃料が使われるところだったんだよ!」と熱い口調で語っていた。

2018年の夏休みには、中学生や高校生が全国の市バスを無料で利用できることになった。貧富の差にかかわらず夏休みを楽しめるようにと、左翼党が中心になって国家予算に組み入れた政策だった。それを後押ししたのも、左翼党青年部の若者たちの熱い思いだったという。そうやって、若者が社会を変えていく様子を語る二人の瞳は、誇らしさに輝いていた。

同世代の環境活動家であるグレタさんについては、どのように感じているのだろうか。「スウェーデンではこれまでも環境問題には熱心に取り組んできたけど、あくまで個人レベルにとどまっていたと思う。ベジタリアンになるとか、ちゃんとゴミの分別をするとかね。グレタのおかげで、本当の意味で責任を負っているはずの国や企業の目を覚まさせることができたのは素晴らしいことだと思う」とリーアさんは言う。

「自分たちも社会を変えたいと思って活動しているけど、他の子が具体的な行動を起こしてくれたことが本当にうれしい。彼女の行動が大きな波となり、スウェーデン中、そして世界中に広がったなんて……」。こうやってまた改めて、「自分たちにも社会を変えられる」というのを、若者たちは実感したようだ。

「フラットな関係」「アンケート」 学校には民主主義が徹底している

彼らがそう実感し、実際に行動を起こすに至るのには、スウェーデンという国が教育を通じて、子どもたちに民主主義の基本概念を徹底的にたたき込んでいるという現実がある。

学校では、教師と生徒はお互いをファーストネームで呼び合い、フラットな関係を築いている。もちろん先輩や後輩という概念もない。学校を変えたいと思っている生徒は、リーアさんの話にあったように生徒会に入って、意見を言うことができるし、各学校には給食委員会というものもあり、生徒が教師や給食担当スタッフとチームになって、全校生徒の意見を取り入れ、改善していくというシステムがある。ヨーテボリにある私立高校では最近、この給食委員会の画期的な提案で、給食がすべてベジタリアン食になった。

私が勤めている高校では、毎年生徒が各教師に対するアンケートを記入することになっている。私自身ももちろんアンケートの対象になり、その結果が成績表のように配られる。自分で言うのもなんだが、私の授業はなかなか人気があって、「教師がもっと学びたくさせてくれる」「教師が明確にどういう点を改善すればいいか教えてくれる」などの項目はどれも高得点だ。しかし、毎回1つだけ評価の低い項目がある。それは「自分が授業に影響を与えられていると思うか」という設問だ。

生徒が授業に影響を与える――日本で生まれ育った私には、授業に生徒の意見を取り入れるという意識は全くなかった。生徒に何をしたいか尋ねれば、毎回「日本のテレビドラマを見たい」と言われるだろう。そんなの論外。教師が全部決めたほうが効率がいいし、生徒のためにもなるに決まっている。私はそう思い込んでいた。しかしスウェーデンで教師をするなら、考え方を変えなくてはいけない。すでにお分かりの通り、学校は生徒に民主主義の意味を教える大切な場なのだ。私も次第に、生徒自身にテストを受ける日を選ばせたり、課題を出すにしても設問をいくつか準備して、その中から自分で選んでもらったりするようになった。

保育園のプロジェクトも子どもたちの意見で決める

しかし実際のところ、生徒に何かを決めさせるのは限界がある。言った通り、授業内容に関して生徒の希望をそのままのむわけにはいかない。そこで重要な役割を果たすことになるのが保育園だ。保育園では、学校よりも学びの内容がフレキシブルなため、ほぼ園児主体でどんなプロジェクトに取り組むかを決めることができる。

娘が通っていた保育園の年長クラスでは、ある年は子どもたちが1888 年に地元の街で起きた大火事に興味を示したため、当時のエピソードを聴いたり、今はレストランになっている当時の消防署を見学に行ったり、工作でその消防署を再現したり、絵を描いたりしていた。その翌年の年長クラスでは、森に散歩へ行ったときに、倒れていた大木に子どもたちが興味を示し、みんなで担いで帰ったそうだ。教室の真ん中に木の幹が長く伸び、皮をはがして中がどうなっているのかを見たり、木にはどんな虫がすんでいるのかを調べたり……という取り組みをしていた。

どちらも子どもたちが興味を示したことから、その学期のプロジェクトに選ばれた。私はそのときにも、「子どもは入れ替わるんだし、毎年同じプロジェクトをやったほうが先生は楽なんじゃない?」と思ってしまったが、子どもたちが「自分たちで決められるんだ!」という意識を養うことこそが保育園での保育の狙いなのだ。

「隠れたカリキュラム」から民主主義を学んでいく

教育学の世界で「隠れたカリキュラム」と呼ばれているが、どの国でも学校では、各科目の知識だけでなく、無意識のうちに社会における暗黙の了解や常識などを生徒に教え込んでいく。スウェーデンの学校で教わるのは、一言で言うと「民主主義」につきる。すべての人間に同じ価値があること、そして国民一人ひとりに意見を言う権利があること。教師と生徒はファーストネームで呼び合うし、生徒が学校に影響を与えられると実感できるよう心を砕いている。さらに今回グレタさんの行動を見て、「子どもでも社会を変えられる」ということをリアルタイムで体験したことは、今のスウェーデンの子どもたちにとって大きな意味を持つだろう。

一方で、教師の言うことが絶対で、校則を押しつけるような学校なら、子どもたちはどんな「隠されたカリキュラム」を学ぶだろうか。教師や組織に服従することを覚えたほうが、生きやすいと感じるだろう。意見を言ってもどうせ聞いてもらえない、むしろ出るくいは打たれるだけ、黙っておいたほうが楽……。子どもたちにそう教えておけば、社会に出たとき、会社や政治家の決めたことに黙って従う大人が出来上がる。治める側、管理する側にしてみれば、これほど楽なことはないだろう。小さいうちから、すでにあるものへ疑問を呈したり、自分が何かを改善したりしていきたいという意欲の芽を摘み取っておくのだから。しかしそれはスウェーデン語で言うところの「民主主義」ではない。

18歳になったときに急に選挙権を与えるのではなく、そのずっと前から子どもたちに教えられることは多くある――スウェーデンの教育現場を見ていると、それを強く感じる。

久山葉子
書籍翻訳者・エッセイスト・日本語教師。2010年に2歳の子どもを連れて家族でスウェーデンに移住。スウェーデンでの保育園生活・小学校生活を体験する。2011年から、私立高校で第二外国語としての日本語を教えている。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない: 移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし』(東京創元社)。主な訳書に『許されざる者』、『悪意』(ともに東京創元社)がある。ツイッターtwitter.com/yokokuyama

(取材・文・写真 久山葉子)

[日経DUAL 2019年10月31日付の掲載記事を基に再構成]

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