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保育園のプロジェクトも子どもたちの意見で決める

しかし実際のところ、生徒に何かを決めさせるのは限界がある。言った通り、授業内容に関して生徒の希望をそのままのむわけにはいかない。そこで重要な役割を果たすことになるのが保育園だ。保育園では、学校よりも学びの内容がフレキシブルなため、ほぼ園児主体でどんなプロジェクトに取り組むかを決めることができる。

娘が通っていた保育園の年長クラスでは、ある年は子どもたちが1888 年に地元の街で起きた大火事に興味を示したため、当時のエピソードを聴いたり、今はレストランになっている当時の消防署を見学に行ったり、工作でその消防署を再現したり、絵を描いたりしていた。その翌年の年長クラスでは、森に散歩へ行ったときに、倒れていた大木に子どもたちが興味を示し、みんなで担いで帰ったそうだ。教室の真ん中に木の幹が長く伸び、皮をはがして中がどうなっているのかを見たり、木にはどんな虫がすんでいるのかを調べたり……という取り組みをしていた。

保育園の教室に鎮座する木の幹。プロジェクトのテーマに合わせて、先生たちは毎年教室内の装飾も変えていく

どちらも子どもたちが興味を示したことから、その学期のプロジェクトに選ばれた。私はそのときにも、「子どもは入れ替わるんだし、毎年同じプロジェクトをやったほうが先生は楽なんじゃない?」と思ってしまったが、子どもたちが「自分たちで決められるんだ!」という意識を養うことこそが保育園での保育の狙いなのだ。

「隠れたカリキュラム」から民主主義を学んでいく

教育学の世界で「隠れたカリキュラム」と呼ばれているが、どの国でも学校では、各科目の知識だけでなく、無意識のうちに社会における暗黙の了解や常識などを生徒に教え込んでいく。スウェーデンの学校で教わるのは、一言で言うと「民主主義」につきる。すべての人間に同じ価値があること、そして国民一人ひとりに意見を言う権利があること。教師と生徒はファーストネームで呼び合うし、生徒が学校に影響を与えられると実感できるよう心を砕いている。さらに今回グレタさんの行動を見て、「子どもでも社会を変えられる」ということをリアルタイムで体験したことは、今のスウェーデンの子どもたちにとって大きな意味を持つだろう。

一方で、教師の言うことが絶対で、校則を押しつけるような学校なら、子どもたちはどんな「隠されたカリキュラム」を学ぶだろうか。教師や組織に服従することを覚えたほうが、生きやすいと感じるだろう。意見を言ってもどうせ聞いてもらえない、むしろ出るくいは打たれるだけ、黙っておいたほうが楽……。子どもたちにそう教えておけば、社会に出たとき、会社や政治家の決めたことに黙って従う大人が出来上がる。治める側、管理する側にしてみれば、これほど楽なことはないだろう。小さいうちから、すでにあるものへ疑問を呈したり、自分が何かを改善したりしていきたいという意欲の芽を摘み取っておくのだから。しかしそれはスウェーデン語で言うところの「民主主義」ではない。

18歳になったときに急に選挙権を与えるのではなく、そのずっと前から子どもたちに教えられることは多くある――スウェーデンの教育現場を見ていると、それを強く感じる。

久山葉子
書籍翻訳者・エッセイスト・日本語教師。2010年に2歳の子どもを連れて家族でスウェーデンに移住。スウェーデンでの保育園生活・小学校生活を体験する。2011年から、私立高校で第二外国語としての日本語を教えている。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない: 移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし』(東京創元社)。主な訳書に『許されざる者』、『悪意』(ともに東京創元社)がある。ツイッターtwitter.com/yokokuyama

(取材・文・写真 久山葉子)

[日経DUAL 2019年10月31日付の掲載記事を基に再構成]

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