若者減って得た安定、日本の投資の未来図(平山賢一)東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長

画像はイメージ=123RF
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「若年層」にあたる15歳から29歳までの人口は世界で約18億人(2019年版の国連推計における2020年中位推計値、以下同)と、全人口の23%に相当します。青年の多さは、国や地域社会全体の勢いを示す指標となるため、経済や投資にとっても重要な基準です。この人口層が相対的に多く、人口ピラミッド上で膨らんで見える現象を「ユースバルジ」と呼びます。

若者の膨らみ―ユースバルジ

国別でみてみましょう。世界で最も若年層の数が多いのは、世界最多人口を抱える中国ではなくインドで、3.7億人です。人口全体では中国の方が多くても、インドの場合、人口ピラミッド上の若年層比率が26%超に達するため、世界で最も多くの青年を抱える国になります。この若年層人口が多い国は、米国(3位)、インドネシア(4位)、パキスタン(5位)などが挙げられます。

日本の若者は1%以下

日本はどうでしょう? 1800万人弱にすぎず、残念ながら全世界の青年に占める割合は1%以下(19位)となっています。

社会全体の勢いを鮮明に表すためには、絶対数もさることながら、その国や地域の総人口に占める若年層の「割合」も大事です。現在、この若年層比率(もしくはユースバルジ比率)が高いのは、ネパール(31%超)、モルディブ(30%超)、イエメン(30%)、エチオピア(30%弱)などであり、アジア、アフリカ諸国が多いのが特徴と言えるでしょう。

ユースバルジ比率が高いと…

一方、主要国の歴史を振り返ると、ユースバルジ比率と社会的安定には関連が見られます。過去にユースバルジ比率が高位を記録した局面で政治的騒乱が発生しやすくなり、歴史上でも社会の不安定性が高まる傾向があります。ユースバルジには社会全体の勢いが高まるメリットがあると同時に、国内政治の不安定性を高めるデメリットもあると考えてよいでしょう。

理想に燃えた、血気盛んな若年層が増え、社会の矛盾に対して変革を求めるムーブメントが高まるためです。それだけではありません。兄弟が増えて、家業を継承できない青年が増加するため、若年失業者数や失業率が増加することになります。それだけ社会に対する不満が高まりやすいという要因も考えられます。

人口構成上、日米で増す安定性

米国でベトナム反戦運動が広がり、カウンターカルチャーが台頭したのは、ユースバルジ比率が上昇した1960年代から70年代にかけてでした。安保闘争で揺れた我が国のユースバルジ比率のピークは1965年ですが、先進国では一貫して、その後低下基調をたどっています。

近年は人口構成からみれば、地域社会の安定性が高まってきている、と言えるでしょう。現在の日本は、なんとユースバルジ比率で世界最低国であります。社会の勢いは劣位にあるものの、内乱・社会変革運動が最も発生しにくい人口構成になっているわけです。

日本に代表される先進国では、一般大衆が力ずくで、政治的要求を通すという流れは弱まっているものの、21世紀以降の国際関係を見渡してみると、国と国との対立が高まり、対立の構図が人口要因とは乖離(かいり)してきていることが分かります。

中国のユースバルジは?

ところで、気になる中国の現状はどうでしょう? ユースバルジ比率は、1989年の31%弱をピークに低下基調で推移し、現在は19%弱の水準まで低下。2050年には15%程度まで一段の低下が見込まれています。それだけ社会の安定性が強化されやすい人口構成になっている点は、今後の中国政治動向や投資環境を考える上で重要だと考えられます。

また、最近の政治的な動向が注目される香港や台湾についても、人口構成に限って言えば、安定化の方向を示唆しています。ユースバルジ比率は香港が約15%、台湾が18%強であり、今後12%台まで低下することが推計されているのです。

最後に、国際的緊張が続く北朝鮮ですが、ユースバルジ比率は約22%程度。今後は低下基調で推移することが予測されています。なお、今回詳しく触れませんでしたが、北朝鮮の生産年齢人口比率は現在がピークとみられます。政治的進展はともかく、経済成長率については多くを期待できない状況にある、と言えそうです。

ユースバルジ比率から想定される投資の未来図は、国内混乱による政治的リスクを過大視するよりも、国際関係に着目すべきだと言えそうです。また、全般的にみれば若年層人口比率の低下により、主要国での社会全体の勢いは、緩慢なものになる可能性が高いでしょう。

平山賢一

東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長。1966年生まれ。横浜市立大学商学部卒業、埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。東洋大学経済学部非常勤講師。30年にわたり内外株式や債券をアセットマネジメント会社で運用する。著書に「戦前・戦時期の金融市場」「振り子の金融史観」などがある。

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運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかける人気コラム「プロのポートフォリオ」のご愛読ありがとうございました。NIKKEI STYLEでの公開は今回で終了し、3月下旬に日経電子版内に新たに発足するマネーサイト「マネーのまなび」でパワーアップして帰ってきます。どうぞお楽しみに。