美しいって決めるのは誰 肥満も高齢も多様化する意識

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/2/2
ナショナルジオグラフィック日本版

米国ニューヨーク市のタイムズスクエアを見下ろす広告板。自分らしい美しさを表現した写真をインスタグラムに投稿するキャンペーンや、肌の色や出身国など多様なモデルを起用することで、幅広い顧客に向けてシェア拡大を狙った広告もある(PHOTOGRAPH BY HANNAH REYES MORALES)

現代の欧米の基準では、細身であることが美しさの必須条件だった。だが肥満率が高まるにつれ、現実とファンタジーの乖離(かいり)が広がっていった。どう頑張ってもファンタジーに手が届きそうもないことに、人々はしびれを切らし始めた。ナショナル ジオグラフィック2020年2月号では、誰もが美しいと評価される時代に向けた社会の変化をリポートする。

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伝統的な美の基準にこだわり続ければ、ファッション業界は大きな商機を逃すことになる。クリスチャン・シリアーノら気鋭のデザイナーたちは、太めの顧客向けの服を作り、商業的に成功して、そのビジネス手腕を高く評価されている。今では超高級ブランドですら、太めのモデルを起用することは珍しくない。

とはいえ、美の基準が変わったのは、より多くのドレスを売るためだけではない。ビジネス上の理由だけなら、おしゃれを楽しみたい、楽しむ余裕もある太めの女性たちは昔からいたのだから、デザイナーたちはとっくに大きなサイズを扱っていたはずだ。ただ単に、大きいことは美しいと見なされていなかったのだ。

人々の意識は変わってきたが、ファッション業界は今も太めの女性に抵抗感がある。彼女たちを憧れの存在に祭り上げることに、美を判定する立場にある人々はためらっている。彼らにとって美の象徴には、細長いラインや、シャープな顔立ちが欠かせないのだ。

とはいえ、彼らも社会の変化と無縁ではなく、新しいメディア環境に身を置いている。一般の人々は、デザイナーが多様なモデルを起用しているかチェックしていて、そうでなければ、ソーシャルメディアで批判の声を上げる。そして、やせ細り、摂食障害に陥ったモデルたちの話が広く伝わるようになると、極端にやせたモデルを使うブランドを名指しで批判し、そんな慣行をやめるよう圧力をかけ始めた。たとえば、ウェブサイト「ファッション・スポット」は、多様性の監視役として非白人、トランスジェンダー、高齢、あるいはふくよかなモデルが全体の何割を占めているかを、随時調査し、報告している。

女性のデザイナーが年をとれば、中高年女性のための服を手がけそうなものだ。ところが彼女たちは、自分たちが生み出した若さを礼賛する風潮にどっぷり染まっていて、老けて見られることを恐れ、ボトックス注射を打ち、ダイエットに励む。業界用語では今でもあか抜けない服を「オールド・レディー(老婦人)」と呼ぶ。「メイトロンリー(年配婦人風の)」と言えば、おしゃれでないか、流行遅れのドレスのことだ。けれども、今や一般の女性たちは業界のこうした常識を当然とは考えず、高々と反旗を掲げる。

高級ブランドが中国や中南米、アフリカに販路を拡大するにつれ、デザイナーたちは文化的な地雷原を避けて、新たな顧客にアピールできる最善の方法を模索するようになった。踏むと怖い地雷原とは、アフリカの一部地域の美白ブーム、幼さを善しとする日本の「かわいい」文化、二重まぶたに憧れ、整形手術を受ける東アジアの女性たち、そしてほぼあらゆる地域にはびこる、肌の色が黒い人たちに対する差別だ。理想化された美には新しい定義が必要だが、一体誰がそれを決めるのだろう。

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