韓国フェミニズム小説、日本で発刊続く 15万部ヒットも

日経エンタテインメント!

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『82年生まれ、キム・ジヨン』 ある日突然、キム・ジヨンに母親や友人の人格が憑依するところから物語は始まる。彼女が経験した事柄への解決策は用意されず、読者は自分の経験を喚起され、自分で考えることを求められる。(1650円/筑摩書房)

韓国小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(以下『キム・ジヨン』)が、日本で約15万部を売り上げている。2018年12月に刊行されるや19年1~6月の6カ月連続で海外文学部門の1位(トーハン「TONETS i」調べ)を占め、すでに14刷に。「翻訳文学は数万部売れればヒットの部類。ましてや韓国文学で15万部超は、かなり異例です」と編集を担当した筑摩書房の井口かおり氏は話す。

同書は、平凡な30代女性キム・ジヨンの人生を医師のカルテの形式で淡々と振り返る小説だ。そこには家庭や学校、職場で多くの女性が当たり前のように経験したであろう理不尽な性差別がリアルに描かれており、“フェミニズム小説”にカテゴライズされている。

韓国では16年5月、女性嫌悪を理由に20代女性が殺された「江南駅通り魔殺人事件」が起きて以降、フェミニズム意識が高まっている。その象徴的な作品とされているのが『キム・ジヨン』で、韓国で120万部のベストセラーとなった。

BTSやRed Velvetのメンバーが読んだと公言したこともあり、日本での初動の売れ行きを支えたのは、主に30代・40代のK-POPファンだった。だが、現在では韓国文化への興味の有無にかかわらず、10代から60代以上までの女性たちが『キム・ジヨン』を手に取っている。

読者層の拡大には、筑摩書房による戦略の転換があった。宣伝課の尾竹伸氏は、SNSなどに書き込まれた感想を見るうちに、この本の共感力の高さに気づいたという。「『これは私自身の話だ』と感じている人が多く、読んだ人と話したいという声が目立ちました。その共感の輪を広げていけたらと考えました」。

著者のチョ・ナムジュは、1978年生まれ。放送作家として社会派ドキュメンタリー番組『PD手帳』などを担当した後、文壇デビューした。筑摩書房では2020年以降も彼女の小説2作を出版予定 (C)MINUMSA

同社では著者のチョ・ナムジュを招いたトークイベントなどを開催。書店店頭に本の表紙を模した看板を用意し、付箋に自分の思いを書き込んで貼る施策も展開した。また、渋谷のスクランブル交差点や山の手線の車内ビジョンなどにも広告を出した。

意外にも、読者の2割は男性だ。「50代・60代が多く、『娘が直面する困難を理解したい』といった声が目立ちます。これまで『フェミニズム』という枠で物事をとらえていなかった人たちに、男女差別に気づいてもらうきっかけになったと思います」(井口氏)。

映画化作品の日本公開も

韓国フェミニズム作品の刊行も続いている。短編小説集『ヒョンナムオッパへ』(白水社)などは、『キム・ジヨン』と合同でイベントを開催し、ブームの盛り上げに一役買った。19年7月に「韓国・フェミニズム・日本」特集を組んだ季刊誌『文藝』秋季号(河出書房新社)が、同誌としては86年ぶりの3刷を記録したことも話題になった。今後も『キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュをはじめ、韓国の若手女性作家による書籍の刊行が予定されている。韓国で大ヒット中の映画『82年生まれ、キム・ジヨン』も、20年には日本公開され、韓国フェミニズムは引き続き注目を集めそうだ。

(ライター 横田直子)

[日経エンタテインメント! 2020年1月号の記事を再構成]

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