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アダム・オルター著 上原裕美子訳 ダイヤモンド社

アダム・オルター著 上原裕美子訳 ダイヤモンド社

あのスティーブ・ジョブズは、自分の子供たちにiPadを使わせていなかった。本書は、そんな驚きの事実から始まる。スマホ、SNS、ビデオゲーム…。世界は数々のテクノロジーであふれるようになった。これらは便利で魅力的な一方、人々を病的にのめり込ませ、健康や生活に支障を来す危険もはらんでいる。しかも多くのテクノロジー企業は、人々が夢中になることを意図的に狙って製品を開発・運営しているのだ。

心理学者の著者はそう論じ、アルコールやドラッグといった物質ではなく、特定の行動に執着する「行動嗜癖(しへき)」を新時代の依存症として紹介。そのメカニズムを豊富な実例を交えて解説する。もはやテクノロジーなしでは生活できない今、その仕組みを理解することで脅威を抑え、賢く利用するしかない。誰もがスマホ中毒に簡単に陥る昨今ゆえに、本書でテクノロジーの正体を知り、付き合い方を冷静に見つめ直したい。

要点1 環境や状況次第で誰でも依存症になる

依存症は特殊な人が抱える問題だと考えられがち。だが、実際にはたった1度の経験や1つの商品をきっかけに、誰でも依存症に転落し得る。現在のテクノロジーの多くは、全体の仕組みから画面の色やデザイン、音に至るまで、あらゆることが人の心をつかんで離さないように計算し尽くされている。一度何かのきっかけでハマるとなかなか誘惑に抵抗できず、結果として生活に不可欠な仕事や人間関係などを、後回しにしてしまう危険性もある。

要点2 進歩や報酬の実感が人をのめり込ませる

SNSの投稿への「いいね!」のように、一度自分の行為に対する反応や報酬が得られると、脳はそれが欲しくてたまらなくなる。しかも、報酬がランダムで予測不能なほどのめり込みやすい。また、ビデオゲームなどには手が届きそうな目標が常に設定されているため、「あともう少し」と感じ続けてやめられなくなる。そうやってフォロワーが増えたりスコアが上がったりすることで、自分は進歩しているという幻想に陥り、「これをしなくては」という強迫観念から離れられなくなるのだ。

要点3 依存を生み出すのは強い社会的結びつき

他人から評価、承認されたいという人間の欲求を巧妙に満たすものが、インスタグラムやフェイスブックなどのSNSだ。また、ネットゲームには世界中のユーザーと一緒にミッションをこなすものが多数あり、そうした"ネット友達"の存在が簡単にゲームをやめられなくさせている。社会的結びつきを感じられるテクノロジーに、人はのめり込みやすい。だが、ネット上の人間関係だけに没入していると、表情や声から相手の感情を読み取るといった、リアルな人との交流が不得手になる。

要点4 中毒から脱するには物理的に環境の工夫を

今やテクノロジーを絶って生活することは不可能。だが、工夫次第で使用の頻度や時間は減らせる。例えば、スマホやパソコンは一定時間、別の部屋に置くなど、物理的に自分から遠ざける。人間は手の届く範囲にある誘惑に惹かれやすいからだ。また、使用時間を制限できる機能やアプリもある。行動嗜癖の誘惑から逃れるためには、自分の環境を自分でデザインするという意志が大切だ。

要点5 行動嗜癖の仕組みはプラスに活用できる

行動嗜癖の特徴を逆手に取って、良い行動に結びつけることもできるし、実際に取り入れている企業や組織もある。例えば、つい怠けがちな仕事や勉強に、楽しいと思わせるゲーム性を持たせて、モチベーションや生産性を高めるのだ。ただし、なんでもゲーム化してしまうと「楽しければよい」と認識され、物事の本質的な意味や役割が軽視されてしまう危険も。どんな体験でも、人々にとって良い効果を発揮するよう、思慮深くデザインする必要がある。

(嶌陽子)

[日経ウーマン 2019年12月号の記事を再構成]

僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた

著者 : アダム・オルター
出版 : ダイヤモンド社
価格 : 1,944円 (税込み)

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