ワインを楽しむナチュラルチーズ 上手な合わせ方は?
エンジョイ・ワイン(22)
国内消費量が4年連続で過去最高を更新中のチーズ。中でも「ナチュラルチーズ」の人気上昇ぶりが著しい。「プロセスチーズ」よりも本格的な味わいを求め、ワインに合わせようというこだわり派が増えているからのようだ。国内でも北海道を中心にナチュラルチーズ工房が増えている。だが、実はチーズもワインも個性の強いものが多いため、合わせるのは意外に難しい。組み合わせ次第ではおいしさが台無しになることもある。合わせるコツをまとめた。
ワインとの組み合わせが問題となるのは、牛やヤギなどの乳を直接固めたナチュラルチーズ。チーズの本場欧州では、チーズと言えば、通常ナチュラルチーズを指す。これに対し、日本で普及しているのは、熱で溶かしたナチュラルチーズに乳化剤を加えて固め直したプロセスチーズ。誰の口にも合うよう癖のないまろやかな味わいにしてあるので、合わせるワインのタイプも問題にはならない。
一方、ナチュラルチーズは原料乳や製造工程、さらには産地の違いで、香りも味わいも食感も大きく違う。塩気が強かったり、強烈な香りを放ったりするなど、個性的な味わいのものも多い。日本で売られているのは欧州産が圧倒的に多いが、国内でも高品質のナチュラルチーズをつくるチーズ工房が各地に増えるなど、プロセスチーズに慣れ親しんだ日本人の間でも、ナチュラルチーズの人気が高まっている。
ナチュラルチーズ専門店のフェルミエ(東京・港)には、「プレゼントされたワインを開けたいが、どんなチーズが合うかと質問されるお客様や、ホームパーティーを開くのでワインに合うチーズを探しに来たといったお客様が目立つ」(社長の西村千鶴さん)。やはり、高級ワインにはナチュラルチーズを合わせたいと考えると同時に、どんなチーズを合わせたらよいのか悩む消費者が多いようだ。
では、どうすれば上手に合わせられるのか、かじたいずみチーズ教室(東京・渋谷)の梶田泉さんにアドバイスしてもらった。梶田さんはシニアソムリエの資格を持ち、ワインにも詳しい。
梶田さんによれば、意外にも一番簡単なのは、ワインもチーズもおびただしい種類があるフランス産同士の組み合わせ。風味の相性など細かいことは気にせず、同じ地方のチーズとワインを黙って合わせるのが基本。「フランスには各地に文化として根付いているワインとチーズがあり、土地の人たちは、何百年も昔からその組み合わせを楽しんできた。実際、とてもよく合う」
例えば、日本でも人気の「サント・モール・ド・トゥレーヌ」や「クロタン・ド・シャヴィニョル」などロワール地方のヤギのチーズには、同じロワール産のソーヴィニヨン・ブランがぴったり。
「ロワールのヤギチーズは、酸味やハーブの香りがあり、フレッシュな味わい。だから、やはり、同じような特徴を持つロワール産のソーヴィニヨン・ブラン種からつくられる白ワインがベスト。赤ワインを合わせるなら、渋みの少ないロワール産のカベルネ・フランやピノ・ノワールからつくられるワインがおすすめ」だ。
また、ブルゴーニュ地方のチーズには「ブルゴーニュワインを合わせれば間違いない」。例えば、ブルゴーニュを代表するウォッシュタイプの「エポワス」は、ブルゴーニュ産のピノ・ノワールからつくられる赤ワインがぴったり。外皮を塩水や酒で洗いながら熟成させたウォッシュチーズは鼻を突くような香りを放つが、「口溶けがよいので、口当たりのやわらかなブルゴーニュのピノ・ノワールは最高の組み合わせ」だそうだ。
例外は「カマンベール」など白かびタイプ。白かびタイプの主産地である北西フランスは気候が冷涼すぎて、昔はワインをつくっていなかった。地元では、特産のリンゴからつくる醸造酒のシードルと一緒に楽しむことが多いという。
ワインを合わせるなら、「ガメイ種からつくられる渋みの少ないやさしい風味の赤ワインが、クリーミーでやさしい味わいの白かびチーズにマッチする。ロゼワインと合わせるのも悪くない」とアドバイス。ガメイからつくられるワインの代表は、フランス・ボージョレ地方のワインだ。
イタリアもフランスに負けないくらいワインもチーズも種類が豊富だ。だが、梶田さんによれば、イタリア人はどちらかと言えば、チーズをパスタやピザ、サラダ料理などにソースの材料やトッピングとして使う傾向が強く、ワインもチーズそのものより料理との相性を重視。また、スペインでは、チーズは食前、食後のおつまみとして楽しむことが多く、合わせる酒も普通のワインではなく、食前酒や食後酒として人気のシェリーが定番という。
そういうこともあり、フランス以外のチーズやワインを含む組み合わせは、「産地より、風味の相性がポイント」(梶田さん)。一般には、やさしくデリケートな味わいのチーズには渋みや樽(たる)の香りなどを抑えた優しい味わいのワイン、個性的な味わいのチーズには力強くしっかりとした味わいのワインが合いやすい。
例えば、塩気の強い青かびタイプは、重厚な赤ワインか甘口のデザートワインを合わせると、口の中で塩気が中和され、よりおいしく感じる。世界三大青かびチーズの一つで、羊乳からつくられるフランスの「ロックフォール」は「カベルネ・ソーヴィニヨン種を主体としたフランス・ボルドー産か米カリフォルニア産の赤ワインのようなタイプが合う」。同じ青かびチーズでも、フランス産の「フルムダンベール」のような味わいが少し穏やかな青かびチーズなら、軽めの赤ワインでも悪くないという。
困った時におすすめなのが、イタリアの「パルミジャーノ・レッジャーノ」やフランスの「コンテ」など、ハードタイプ。「長期熟成由来のうま味がたっぷりで味わいもしっかりしているため、重厚な赤ワインともバランスがとれるし、軽い白ワインと一緒に食べると、白ワインをよりおいしく感じさせる効果がある」という万能タイプだ。
どんなワインにも合うのがハードタイプのチーズなら、逆に、ほとんどのチーズに合うのが、シャンパン。「酸味もうま味もあるので、酸味を感じるチーズにも、しっかりした味わいのチーズにも合うし、泡から感じるクリーミーな食感が、白かびチーズのクリーミーな味わいとも合う。唯一、青かびチーズには合わないが、甘口のシャンパンなら青かびチーズとも好相性」と梶田さんは話す。
好みは人によって違うので、いろいろな組み合わせにチャレンジしてみるのも楽しいかもしれない。
(ライター 猪瀬聖)
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