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エジプトのミイラ巡る黒歴史 薬として取引・偽物作り

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ナショナルジオグラフィック日本版

現代の研究者であれば、古代エジプトのミイラに最大の敬意と注意を払って接するだろうが、かつてそうではない時代があった。

ヨーロッパにおいてミイラは、研究対象というよりも、薬や顔料といった実用の商品だった。15世紀には、ひと儲けをもくろむ商人たちによって、エジプトからヨーロッパへミイラを運び出す「ミイラ取引」が盛んになった。

薬効を信じられていた

死後の世界のために体を保存するミイラ作りは、複雑な工程で長い時間を要する。時代の変化とともにその手順も進化したが、基本的な作り方は変わらなかった。内臓を取り除いた後、ナトロンと呼ばれる天然の鉱物を使って体を乾燥させる。没薬(もつやく)などの香料を加え、体に油と樹脂を塗り、亜麻布やおがくずを詰めてから布で全体を包む。

なぜミイラが薬に使われるようになったのかは、専門家にもわからない。ヨーロッパでは、防腐処理を施された遺体に超自然的な癒しの力があると信じていた。古代世界で癒し効果があるとされた瀝青(れきせい)がミイラに含まれていると誤解されたためだと指摘する学者もいる。

黒くて粘着性のある瀝青は、死海周辺で産出する原油由来の炭化水素化合物で、西暦1世紀の学者プリニウスやディオスコリデス、2世紀のガレノスが、その薬効について書き残している。ディオスコリデスは、アポロニア(現在のアルバニア)産の液体の一種について記述し、ペルシャ語で「ムンミヤ」と呼ばれていると説明した。またプリニウスによれば、創傷やその他様々な病気に効果があったという。

中世ヨーロッパの学者たちは、エジプトの墓で発見された黒っぽい物質を見て、瀝青ではないかと考えた。11世紀の医師コンスタンティヌス・アフリカヌスは、ムンミヤとは「死者の墓で見つかった香辛料」で、「黒く、異臭を放ち、輝きがあり、大きいものほど質が良い」と書いている。

盛んなミイラ取引、「偽物ミイラ」づくりも

ヨーロッパでミイラが薬になると考えられるようになったのは、15世紀のこと。薬用ムンミヤの需要が高まったのがきっかけだが、天然の瀝青は希少だったので、野心的な商人たちはその代替となるミイラを探しにエジプトの墓へ出かけて行った。ミイラの体とそこに含まれる樹脂、油、香油をすりつぶしてみると、ペルシャのムンミヤと粘度も色もそっくりなものができた。しかも、ムンミヤよりも香りも良かった。

そう簡単にミイラが手に入るわけではなかったので、欲に目がくらんだ東の国の商人たちは、自分たちでミイラを作ることを思いついた。だが、さすがに薬屋の目はごまかせなかった。薬を買い付けるためにアレキサンドリアまで旅したガイ・デ・ラ・フォンテーンは1564年に、古代ミイラと称されていたミイラの多くが最近作られたものだったと暴露した。その後、本物の高級ムンミヤと偽物の粗悪品との間で線引きがされた。

最近死んだばかりの人間を古代エジプトのミイラに見せかける処理工程は、気持ちのいいものではない。ドミニコ会のスペイン人僧ルイス・デ・ウレタは、1610年に著した『Historia de los reynos de la Etiopía(エチオピア王国の歴史)』のなかで、ゾッとするようなミイラの作り方について詳述している。

それによれば、捕らえられた人間を何度も飢えさせて特別な薬を与え、眠っている間に首を切り落とす。その後、体中の血を抜いて香辛料を詰め、わらに包んで15日間にわたり土中に埋める。それを掘り起こして、24時間天日干しにする。すると、皮膚はどす黒く変色する。こうしてできたミイラは古代ミイラよりもきれいで、薬効も優れていると、ウレタは書いている。

粉末にした顔料、マミーブラウン

ミイラをすりつぶして粉末にしたものは、薬としてだけではなく、芸術にも用いられた。少なくとも16世紀以降、人間のミイラから作られた「マミーブラウン」という顔料(マミーは英語でミイラの意)が、ヨーロッパの画家のパレットに乗るようになった。ミイラの粉末を、松脂、没薬と混ぜ合わせたもので、当時はミイラから薬を調合していた薬屋が顔料屋を兼ねることもあった。

ルネサンスの画家たちは、マミーブラウンの豊かな色調や汎用性からこれを重宝し、陰影や濃淡を出したり肌の色を出すために使った。ミイラ由来の顔料が人間の肌色に使われるとは、皮肉な話だ。

ミイラ開きという見世物

18世紀になると、ミイラが薬に使用されることはなくなった。ヨーロッパ人のミイラに対する見方は変わり、学者たちはミイラを包む布の中身に興味を抱いた。こうして、ミイラ開きが娯楽イベントとして盛んに行われるようになった。初めの頃は個人の家で、後の時代になると、公共の劇場でも行われた。ミイラ開きが初めて記録されたのは1698年、カイロに赴任したフランス領事のブノワ・ド・マイエがミイラを包んでいた布を開き、中身を克明に記録した。1700年代初頭には、ザクセン・コーブルク公の薬屋だったクリスチャン・ヘルツォグが観客の前でミイラを開いて見せ、その中から出てきた遺物について詳細を『Mumiographia』という本に書いている。

ミイラ開きを見世物にしたショーは、19世紀に入っても続いた。英国人外科医トーマス・ペティグリューのミイラ開きは広く人気を集め、彼は「マミー・ペティグリュー」とあだ名されるまでになった。

見世物から敬意を払うべき研究対象へ

だが、あるミイラの骨に大きな腫瘍を発見したペティグリューは、それをきっかけにミイラとは実際の人間の記録であることに気付いた。そして、これによってあるひとりの人間の人生を再現させることも可能であると考えるようになった。こうして、ミイラ研究は観客を前にした見世物から、(見世物である側面は一部否めないながらも)科学分析の領域へと移行していく。彼の著作『A History of Egyptian Mummies(エジプトミイラの歴史)』は、エジプト学の基礎を築いた文献のひとつとされている。

19世紀後半から20世紀の初めにかけて、重要な考古学的発見が相次ぎ、新たな見識がもたらされ、エジプト学はより正式な学問へと発展していった。1881年、テーベの墓地遺跡で、所在が不明だったセティ1世のものも含め、新王朝時代の王族のミイラが数多く見つかった。また、1898年には王家の谷からアメンホテプ2世の墓が見つかった。これらのミイラの多くは、包んでいた布を解かれ、当時の学術的慣習に従ってその身体的特徴や遺物が細かく記録された。

1900年代初めに、新たなミイラ研究の手法が採用された。カイロ大学医学部の解剖学者グラフトン・エリオット・スミスが、王族のミイラを写真撮影して、1912年に『Catalogue of the Royal Mummies in the Museum of Cairo(カイロ博物館所蔵王家のミイラ目録)』と題された本にまとめた。この本は、今も参考資料として使用されている。スミスはまた、ミイラのレントゲン写真を撮影した最初の人物でもある。

そうしてようやく、ミイラとは貴重な知識の宝庫であり、敬意を払われるべき人間の遺体でもあると認められるようになっていった。

だが、1900年になってもまだ、昔からの習慣を変えるのは難しいと思わせるような出来事があった。紀元前3055年頃に死んだファラオ・ジェルが埋葬されていると考えられていた墓が発掘されたときのこと。ジェルは、エジプト第1王朝で3人目の王と考えられ、統一されたエジプトを統治した初期のファラオのひとりだった。

その墓で腕輪を着けた腕のミイラが発見されると、腕輪だけ慎重に外されて保存された。腕の方は、記録を取り、写真撮影を終えた後は、ゴミと一緒に捨てられた。現代の学者が聞けば、卒倒しそうな話だ。

(文 José Miguel Parra、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年1月5日付記事を再構成]

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