タバコを吸う人 インフルエンザ発症リスクが5倍以上
タバコを吸う人(喫煙者)は、タバコを吸わない人(非喫煙者)に比べてインフルエンザにかかるリスクが約5.7倍になることが、英国で行われた研究で明らかになりました。
呼吸器の免疫系に悪影響があることは知られていた
喫煙は、気道の構造を変化させ、呼吸器の免疫系に悪影響を及ぼすことが知られています。これまで、喫煙者はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性呼吸器疾患や、肺炎などの急性呼吸器感染症を発症しやすいことが示されていましたが、喫煙とインフルエンザとの関係については、十分なデータは示されていませんでした。
今回、英Nottingham大学病院のHannah Lawrence氏らは、非喫煙者と比較した喫煙者のインフルエンザ発症リスクの大きさを明らかにするために、これまでに行われた、喫煙とインフルエンザの関係について検討した複数の研究を対象に、系統的レビューとメタ分析[注1]を行いました。
5種類の文献データベースに2017年11月7日までに登録されていた研究の中から、喫煙者と非喫煙者のインフルエンザ発症リスクについて比較していた研究を選出し、条件を満たした9件の研究(対象者は計4万685人)を分析対象にしました。
9件のうち6件は、症状に基づいてインフルエンザを診断していました。残りの3件は、インフルエンザウイルスの感染を調べる検査を行い、陽性となった患者(確定例)を分析していました。
まず、確定例を対象に行われた3件の研究では、インフルエンザ患者に占める喫煙者の割合は、それぞれ27%から42%(平均は31.8%)と報告されていました。インフルエンザではない人々では、喫煙者の割合は3%から14.2%(平均は10.5%)でした。
症状に基づいて診断されていた患者を対象とする研究では、6件中4件が喫煙率を報告していました。発症者における喫煙者の割合は20.3%から57.5%(平均は37.9%)で、インフルエンザではない人々では、21.9%から38.0%(平均は29.1%)でした。
確定例を対象に、喫煙者のインフルエンザ発症リスクを比較したところ、非喫煙者の5.69倍であることが明らかになりました。また、症状に基づいて診断された患者でも、発症リスクは非喫煙者に比べ1.34倍と、喫煙者の方が34%高くなっていました。
今回の研究で、喫煙者はインフルエンザを発症するリスクが高いことが示されましたが、喫煙をやめれば発症リスクが低下するのかどうかは、現時点では明らかではありません。Lawrence氏らは、「喫煙者ほどワクチン接種が必要である可能性が示された」とした上で、「今後は、既に禁煙した人のリスクを、非喫煙者、喫煙者と比較する研究や、次世代型のタバコ(電子タバコや加熱式タバコ)のユーザーのインフルエンザのリスクについて検討する研究を行う必要がある」と述べています。
論文は、2019年8月26日付のJournal of Infection誌電子版に掲載されています[注2]。
[注1]系統的レビューとメタ分析とは、文献を網羅的に探索して、知りたい疑問に対する答えを得るために行われた研究の報告をできるだけ多く同定し、それらの中から条件を満たす論文を選んでデータを抽出し、統計学的な分析を行って、信頼性の高い結論を導き出す研究方法のこと。
[注2]Lawrence H, et al. J Infect. 2019 Nov;79(5):401-406.
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday2020年1月8日付記事を再構成]
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