短時間睡眠でも眠くならない 遺伝子変異を発見

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/1/28
ナショナルジオグラフィック日本版

写真はイメージ=PIXTA

ナポレオンは3~4時間しか眠らなくても大丈夫だったというが、その真偽はともかく、世の中には確かに、短時間の睡眠でも大丈夫な人がいる。今回は、2019年米国で発表された報告をもとに、こうした人たちの特徴と、睡眠と健康について、専門家解説してもらおう。

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神経科学の専門誌「ニューロン」の19年9月号にショートスリーパーの遺伝子が見つかったという報告が載った。その詳細は後ほど紹介するとして、まずショートスリーパーとは何か、から始めよう。

ショートスリーパーとは、簡単に表現すれば短時間睡眠で生涯を健康に過ごすことができる人だ。睡眠障害の国際基準でもショートスリーパーは「正常範囲内だが異型(標準から大きく外れている)」な睡眠パターンとして取り上げられている。「疾患」ではなく「異型」と表現されるのは、短時間睡眠によって健康上の問題が生じないためである。

困ったことに、ショートスリーパーと判定する絶対的な基準は設けられていない。つまり「睡眠時間が何時間未満ならショートスリーパー」という具体的な数値がない。というのも、脳波計測など信頼のおける方法で実質的な睡眠時間を長期間にわたり測定した「真のショートスリーパー」がどれくらいの頻度で存在するのか多人数を対象に調べた疫学研究がないためである。一応の目安として成人の場合、典型的には「睡眠時間が5時間未満」とされている。最近の診断基準では「6時間未満」というものもある。加えて、日中の眠気がなく(もちろん週末の寝だめもない)、睡眠不足による心身の不調が一切ないことが条件になっている。

「えー、5時間でショートスリーパー? 自分は毎日4時間くらいしか寝ていない」などと寝不足自慢をする人がいるが、週末の寝だめや、昼寝、夕食後のリビングでのうたた寝などもすべて含めて、正味5時間以下の睡眠で充足される人は極めて少ないと考えられている。加齢とともに必要睡眠時間は短縮し、70代では5時間程度の睡眠で生活できている人もいるが、ショートスリーパーは若い頃から睡眠時間が一貫して短い。このような真のショートスリーパーが人口の1%以下であることはまず間違いないだろう。

私自身も睡眠研究を始めて長いが、ほぼ間違いなくショートスリーパーだろうと思われる人は数名しか出会ったことがない。ある調査に応募してきた人たちで、睡眠時間を客観的に計測できるアクチグラフで1カ月ほど調べても、確かに5時間前後の睡眠で元気に生活していた。

ショートスリーパーが多発する家系を発見

日本では毎年、厚生労働省が全国から無作為で抽出した成人約7000人を対象に、生活習慣や食生活を調査する国民健康・栄養調査が実施されている。その調査結果を見ると、日本の成人の睡眠時間は減少傾向が続き、普段の睡眠時間が5時間未満と答えている人の割合は実に8.5%に達している。しかし、この中には(本人が気付いているかどうかは別にして)昼寝や寝だめで辻つまを合わせながら平日5時間未満の睡眠でやり繰りしている人や、不眠症その他の睡眠障害によって睡眠が短縮している人も多数含まれている(むしろ大部分だろう)。

さて、そのような極めてレアなショートスリーパーが多発する家系が米国で見つかり、カリフォルニア大学を中心としたグループが高度なテクニックを駆使して原因遺伝子までたどり着いた。第10染色体上にあるβ1アドレナリン受容体遺伝子(β1-adrenergic receptor gene; ADRB1)と呼ばれる遺伝子のある塩基に突然変異が生じると睡眠時間に変化が生じることが明らかにされた。

たった一つの家系から原因遺伝子を見つけることができたのは、短時間睡眠という特徴が常染色体優性遺伝形式で現れたからである。つまりADRB1は、男女関係なく2組ある遺伝子のうちの片方に突然変異が生じると高確率で短時間睡眠となる影響力の強い遺伝子であることを意味している。

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