完成まで6年待ち 「フジイ」のオーダーかばんの魅力

MEN’S EX

2020/1/25
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紳士の装いに重要なスーツやコート、靴と同様に、鞄も英国が正統。日本にありながら、その伝統の高みに立つフジイ鞄の魅力を、テーラー「羊屋」(東京・茅場町)オーナーの西口太志さんが愛情を持って語った。

■FUGEE(フジイ) “イギリス偏愛”私の特別なもの

1986年以来、藤井幸弘さんが営む鞄工房「フジイ」は現在、注文から納品までが6年の人気ぶり。写真の下段3型は全て西口さんがビスポークしたもので和装用。左から、縫製が隠された山羊革貼りのユーティリティケース、希少な姫路産白なめし革の巾着、カバ革のワンショルダー。上段2型&中段2型は、フジイのオーダーサンプル

本当にいいものは買って、使い続けないと、その真価が分からないというのが私の持論。鞄では、海外の高級ブランドも購入してきたが、使ううちに不満が出てしまい、それで最終的にたどり着いたのがフジイ。20数年来、さまざまなタイプを作っていただいたが、どれもが見事な出来栄えで、今にいたるまで不満なし。オーナーの藤井幸弘さんの鞄は世界一だと断言できます。

私のファッションへの興味はアイビーから始まって、やがてそのルーツである英国トラッドに移り、それは今も変わりません。とはいえ鞄については、本国で現在作られているものに往年のクオリティが残されていないように思います。が、実は日本にあったというべきか、往年の英国鞄以上のクオリティがフジイの鞄には備わっているんです。

藤井さんの鞄作りへの情熱には頭が下がるばかりです。修業時代に渡英し、某メーカーの庭に入り込み、その技術の教えを請うたとか。それも英語が分からぬままで(笑)。その気概はすさまじく、しかも驚くべきはこの思いがいまなお、全く揺らいでいないこと。しかも芸術家肌でありながら偏屈さはなく、正直でやさしくて、誠実で折り目正しく、その人柄は作品にも表れている。そして私はいつも、そうした人が作るものを使いたいと思っています。

口金鞄で職人の技術力が最も端的に現われる横マチのプリーツだが、「FL46」ではそれが歪みない円形を成している。4mmの厚口ブライドルレザーを可能な限り鋤くことなく、これを成し遂げているのは驚異的だ。

英国志向の私が最も好む鞄は、同国らしさと男らしさを兼ね備える、口枠鞄。つまりはダレスバッグです(写真下、西口氏が抱えている鞄)。最初にオーダーしたのもそうで、工房のサンプルをベースに、背負いも可能な設計で作っていただきました。柔らかい鞄を除けば、フジイの鞄は総手縫いで作られていますが、ピッチが正確で破綻のない、その縫製の素晴らしさは圧巻。また金属パーツの多くはオリジナルで、その一部は工房で自作されているんです。さらに、革のコバは切り目本磨きですが、煮出した布海苔を繰り返し塗布しては磨き上げる、昔から伝わる技術で実直に作っているのは、おそらくフジイが唯一だと思いますよ。

私は趣味が読書で、いつも本を数冊持ち歩くので、それらを入れても壊れない鞄もお願いした。それもクラシカルな口枠鞄。強化された底はすこぶるタフで、しかも2ハンドルの握りが誠に心地よい。また、和装も私が好むところなので、それに合う鞄も作っていただきました。難しい注文だったと思いますが、藤井さんは見事、わがままに応えてくださり、心から感謝し、大いに満足もしています。

私には娘がいて、まだ小さい。何年も何年も待ち望み、ようやく授かった大切な子どもです。ここから思うのは、特別なものを得たいのなら、ときには待つことが必要だし、もっと言えば待つことにも価値があるということ。私はオーダーしたものが出来上がる間を「自分が求めているものの価値とは何か?」と問うなど、自分を見つめる期間にしています。そうして待つうちに、やがて手にできるものへの愛情は高まり、その存在が特別なものとなり、一生大切にしたいとの思いへと育っていく。

フジイの鞄作りは1ケ月に1個というペースもあり、現在、納品まで6年待ち。細部まで手を抜かず、妥協せず、真摯な姿勢で作っているのだからこれはやむなきことで、むしろ6年間をポジティブに捉え、この年月を「勝ち」と考えて欲しいです。なぜなら、これが待てない人は、フジイ鞄のあの素晴らしさが手に入らないのだから……。

「羊屋」オーナー 西口太志
1966年、大阪生まれ。高校時代にアイビーに開眼し、後に英国ファッションのフリークに。服&モノ好きが高じ、2007年にテーラー「羊屋」(現所在地は東京・茅場町)を開く。和装や骨董・美術品にも造詣が深い。
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