老後の節約ほどほどに 高齢者消費が日本の成長を左右

日経マネー

平均余命が長くなっているということは、亡くなる年齢が高くなっていることです。それに伴い、相続は90代から60代へと受け継がれることが多くなっています。

18年の人口動態統計で見ると、男性の死亡者数が最も多い年齢帯は85~89歳で13.3万人、女性は90~94歳で15.1万人です。夫から妻への1次相続は夫が80代後半に発生し、母親から子供への2次相続は母親が90代に入ってから起きることが多い、ということになります。親から子へと行われる相続が発生するのは、相続人、すなわち子供が60歳代になってからが多い、というわけです。

相続が高齢者同士で発生する「老々相続」となると、資産はその「高齢者」の間だけで回っていくことになります。そして、その資産は「老後のためにできるだけ使わない」という、より保守的な傾向の中に取り込まれたままになってしまいます。その規模は2000兆円にも達しているのです。

高齢者消費が成長を左右する

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、65年の日本の人口構成は、65歳以上がほぼ変わらない3300万人台である一方、20~64歳の現役層は約7000万人台から4000万人台に大きく減少します。つまり、現役世代の消費だけで現在と同じ水準の経済規模を維持するのは難しい、ということになります。

そうなると、高齢者の消費が経済成長には欠かせなくなります。高齢者が保有するこの2000兆円の資産は、その成長のための重要なリソースといえます。

(イラスト:平田利之)

フィデリティ退職・投資教育研究所が16年に実施した「相続人5000人アンケート」で推計した相続市場の規模は、約50兆円でした。毎年50兆円に上る相続資産は、2000兆円の高齢者の資産のわずか2.5%にすぎません。

しかしその見直しには大きな効用があります。例えば、高齢者がほんの少し今よりも資産の使い方、取り崩し方を理解して、相続として子供に残すだけではなく、消費に回すことができたならばと考えてみてください。

高齢者が相続資産50兆円の1割、つまり5兆円分の節約を緩めたとします。この規模は、高齢者の保有する資産からするとわずか0.25%です。しかし、500兆円余りに及ぶGDP(国内総生産)から考えると、約1%に相当します。

すなわち、高齢者が相続させる資産の1割を上手に消費に回せば、日本の経済成長率を1%引き上げる力になるのです。まさしく「高齢者が安心して資産を使える社会」こそ、超高齢社会で必要不可欠な考え方ではないでしょうか。

野尻哲史
フィデリティ退職・投資教育研究所所長、フィンウェル研究所所長。一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て2006年にフィデリティ投信に入社。07年からフィデリティ退職・投資教育研究所所長。19年にフィンウェル研究所を立ち上げ「複業」をスタート。アンケート調査を基にしたお金に関する著書・講演多数

[日経マネー2020年2月号の記事を再構成]


日経マネー 2020年 2 月号

著者 : 日経マネー編集部
出版 : 日経BP
価格 : 750円 (税込み)


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