谷口和信氏

高いクオリティーを目指さないわけではない。むしろ、品質を高めるためには段階的な改善にエネルギーを注ぐべきだと、谷口氏は考える。初案を見た上司やクライアントが「いや、これは方向性が違う」と言い出して、精魂を傾けた企画書が一瞬で無駄になってしまうケースは珍しくない。依頼の前提条件が変わったり、追加の要望が飛び出したりすることもざらだ。それだからこそ「後から手直し可能な余地のあるプランを用意しておき、時間もエネルギーも余裕を残す作業設計が望ましい」(谷口氏)。初案づくりに手を抜くのではなく、序盤で燃え尽きてしまわないよう全体を見渡した時間と労力の最適配分をデザインするという態度だ。その際、所要時間付きのメモが役に立つ。

もともとは小遣い帳から始まった。思い出せない使途不明金があったので、無駄を減らそうと記録を始めた。やがて「時間にも家計簿があっていいだろう」と考えるようになった。記録を始めたら「無駄な時間に伴うストレスが減ったので、自然と習慣になっていった」(谷口氏)。大きなメリットと感じているのは「うっかり忘れや予定の抜け・漏れが減った」という点だ。かつては頭の中で整理していたつもりだったが「実際には、締め切りの間際になって、慌てて取りかかるようなケースもしばしばだった」。今ではあらかじめ納期や締め切りをすべて書き出してあるので「抜けや忘れがあるのではという心配が消えて、気持ちが穏やかになった」という。業務に伴うストレスを減らす意味からも、仕事量の洗い出しは効果が大きいだろう。

時間配分をイメージしやすい

こまめにメモを取る目的は仕事の「見える化」にある。「見える化」すれば、時間配分をイメージしやすい。今、自分が抱えている業務をあらかじめ書き出してしまうことによって、優先順位や繁忙度を把握できる。ぼんやりと頭の中でタスク管理していると「実際よりも過大なタスクを抱えているような恐怖に襲われて、必要以上にあたふたしてしまいがち」(谷口氏)。でも、正味の仕事量を把握できれば「これだけの仕事を片付ければ、後は時間が空く」と考えられるようになり、個々の仕事に集中できる。ちぎっては投げ式にタスクを片付けた先が見通せるので、段取りの組み立てが容易になるのもタスクの一覧化がもたらす利点だという。

仕事の総量が見えると、それぞれのタスクをてきぱきとこなして早くフリーな時間を手に入れようという気持ちがわいてくる。普段、いつ終わるか知れないような状態で仕事に向き合っていると、一生懸命に働いているようにみえて実は「効率の悪い業務ペースに陥っていることが珍しくない」と谷口氏は指摘する。ペースダウンの一因はストレス。「山のように仕事があって、いつまでたっても終わらない」というネガティブなイメージで頭がいっぱいになると、モチベーションが上がりにくく業務効率もダウンしがちだ。「見える化したうえで本当にタスクが多すぎるのであれば、きちんと分散や繰り延べの相談をすべきで、その洗い出しにも一覧化は役立つ」(谷口氏)

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