『シャボン玉とんだ~』を演じられる幸せ(井上芳雄)第60回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。1月7日から日比谷シアタークリエでミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』に出演しています。1988年に音楽座の旗揚げ公演として初演され、その後も継続的に上演されてきた名作で、僕は日本オリジナルミュージカルの傑作で宝物だと思い続けてきました。そんな作品に出られてとてもうれしいし、今の時代にどう受け入れられるのか、どきどきしながら演じています。

『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』は日比谷シアタークリエで2月2日まで上演中。2月7~9日:福岡・福岡市民会館、2月12~15日大阪・新歌舞伎座で上演(写真提供:東宝演劇部)

僕が演じるのは、シャイで頼りない青年・悠介。周囲から心配されながらも、作曲家として身を立てるという夢に向かって努力していた彼は、ある日、スリの少女・佳代と遊園地の迷路で出会います。身寄りがなくひねくれて生きてきた佳代でしたが、「いつの日か夢は叶う」と言う悠介の姿に、素直な気持ちを思い出し、2人は恋に落ちます。ところが、佳代には本人も知らない秘密があった……というお話です。

残念ながら僕はこの作品を舞台で見たことがありませんが、舞台中継を録画したビデオは何度も見ました。小学生くらいのころ、夢中になって見た思い入れのある作品で、日本にもこんなキャッチーな音楽で、笑えて泣けるミュージカルがあることに、すごくびっくりした記憶があります。

いろんな要素を持っている作品ですが、一番の魅力は物語のスケールが大きいこと。人生に迷う男女が時間と空間を超えて愛を貫くストーリーに、宇宙人まで絡んできます。そんな想像を超えるSFのようなところがミュージカルにすごく向いていて、歌うことの不自然さを払拭してくれるというか、宇宙まで行っちゃうと歌ってもおかしくないだろうと。日本の話は、僕たちの日常なので、なかなか歌ったり踊ったりするところまで飛躍させにくいのですが、そこがうまくいっている希有な作品だと思います。

それほど偉い人や強い人も出てこなくて、弱い立場の人が一生懸命に生きている話です。人間や生命に対する眼差しが温かくて、とても感動的なのですが、同じくらい笑いが多いのも、この作品ならでは。音楽座の初演版で佳代を演じた土居裕子さんに聞いたのですが、脚本を書かれた横山由和さんが関西出身ですごい照れ屋で、ずっとシリアスな話を書くと照れるので、笑いをどんどん入れてしまうのだそうです。コントもどきの場面もあるし、客席から笑いが絶えません。僕たち俳優は、幸せな気持ちで演じられています。

音楽も主題歌の『ドリーム』をはじめ名曲ばかり。外国のミュージカルだと、音域が高いのや低いのがあって、曲のレンジが広いことも多いのですが、日本人の話だとそんなに声を張り上げるわけでもなく、無理のない音域。しゃべっているのと変わらないくらいの音域で歌うから誰でも口ずさめるし、シンプルなメロディーで、シンプルな言葉しか使ってない。それが物語の力で感動的な歌になるのも、日本のオリジナルミュージカルのお手本のように思います。

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