豪州熱波の悲劇 大量死するオオコウモリの親子たち

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/1/27

この時点で川へ飛んで行って水を飲むこともできるが(2.6平方キロの公園内には、ヤラ川が流れている)、「それは、人間が熱波のなか店へ駆けていくようなものです」と、ブレンド氏は説明する。飛ぶのにもエネルギーを使うので、疲れ切って水分が不足しているコウモリはついそのまま動かずにやり過ごそうとするのだ。

動揺してパニックになり始めたコウモリは、どこか涼しい場所へ避難しようとする。母親は子どもたちを置いて、涼しそうな木の幹を探しに飛び立つ。コウモリは、互いの後についていく習性がある。木の幹に1匹が留まっているのを見ると、他のコウモリたちはそこが避難場所だと思い込んで群がってくる。「スクラムのように固まるのです」と、ブレンド氏。最初にそこにいたコウモリは、数十匹の仲間に囲まれて押しつぶされる。

公園の職員やボランティアは、そうなってしまった群れを見つけると、ホースで水をかけてコウモリたちを引き離し、体の熱を下げ、喉の渇きをいやしてやるのだという。

ヤラ・ベンド公園で、木の幹に群がったコウモリに水をかけるメルボルン消防署の隊員(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)

木からバラバラ落ちる悲劇

2019年12月に、4500匹のオオコウモリを死なせた猛暑は3日間続いた。暑さが最高潮に達した20日、「気温が下がる気配はありませんでした」と、ブレンド氏は振り返る。午後9時、チームは外で水を撒いていた。真っ暗で何も見えず、木の枝が落ち、毒ヘビも潜んでいたため、「その日の作業は中止せざるを得ませんでした。何も見えず、気温は38度もありました。痛ましい出来事です。修羅場でした」

メルボルンを拠点に活動する写真ジャーナリストのダグラス・ギームジー氏は、当時を振り返ってこう語る。「まず、1匹が落ちてきました。すると、せきを切ったように残りのコウモリたちがバラバラと落ちてきました。互いに重なり合い、息ができなくなって、少なくとも数十匹の死骸や死にかけたコウモリが木の下に積み上がりました。見下ろすと、コウモリたちはあえぐようにこちらを見上げているんです。体が熱くなって、息も絶え絶えでした。

ボランティアたちは死骸の山をかきわけて、まだ生きている個体がいないか必死で探しました。でも、4500匹のコウモリに対して救助する人間はせいぜい2~30人です。戦場のようでした。こんなことがこれからも繰り返されるのだろうと思うと、胸がはりさけそうです」

「一部のコウモリは救うことができましたが、手の中で死んでしまったものもいました」。救助に携わったタムシン・ホガース氏は言う。3日目の12月20日、辺りには「死の臭い」が立ち込めていたという。メルボルンでホガース氏が運営する野生生物シェルター「フライ・バイ・ナイト」では、ハイガシラオオコウモリを救助して手当てし、自然に戻す活動を行っている。ホガース氏らは12月にヤラ・ベンド公園で255匹の赤ちゃんコウモリを救助した。現在、ビクトリア州の各地で24人のボランティアが生後2~12週間のコウモリを世話している。

ハイガシラオオコウモリの死骸を調べる野生生物救助隊のケイト・チェンバレイン氏とトレイシー・ベーカー氏。1月初めに公園で回収したコウモリの翼はちぎれていた(PHOTOGRAPH BY DOUG GIMESY)

弱った母子を襲った猛暑

暑い日にコウモリが死ぬのは、ヤラ・ベンド公園では珍しくない。「これまでも、暑さは心配ではありました。一日も猛暑がなく夏を越すということはありません」と、ブレンド氏は言う。昨夏も、数百匹のコウモリが死んだ。1994年から2007年の間に、オーストラリアでは暑さのために約3万匹のハイガシラオオコウモリが死んだとの報告もある。

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