
「外はカラメル味で、中はとろんとしている。とにかく印象に残る味」
しかも、長年洋菓子に携わってきて、「チーズケーキは世界中のみんなが好きなお菓子。そしてとくに、日本人はチーズケーキが大好き。さらに、男の人もチーズケーキは好き」という実感があるため、そこに新味が登場したことは見逃せないことだった。
ただし、「日本人には甘すぎるとも感じた」。それでも、焦げ目のある表面とレアっぽさを感じさせる中心とのコントラストは魅力的だった。
実際に作るきっかけになったのは、製菓材料専門店からウェブサイトで紹介するための新作のルセット(レシピ)提供を求められたことから。このとき、サン・セバスチャンを案内してくれた現地在住で地域の食事情に精通している女性がそこで教わって記したレシピをベースに作った。
ただ、このレシピが「本当にこれで焼けるのかなと思った」というほど、一般的な製菓の常識を超えていた。ほとんどがクリームチーズと砂糖で、小麦粉はつなぎ程度にしか使わない。もちろん、それこそがこの菓子の魅力の源泉なのだが、実際に焼くには工夫がいる。また、日本でウケる味に修正も必要と感じた。

「まず、コクを出したかったので、全卵と卵黄を足した。それから、オリジナルのレシピではやはり甘すぎると感じたので、砂糖を減らそうと考えた。ところが、減らしすぎると表面にカラメルがうまくできない」
裏技はある。製菓用の粉末のカラメルというものがあり、それを表面に散らして焼けば、本体の砂糖を減らしても表面にカラメル層を作ることはできる。高温で焦げやすいグラシン紙のカップを使って1人前サイズで小さく焼くには有効な手だ。しかし、菓子職人としてその選択肢はない。
結局、試行錯誤の末、焼き方の工夫で突破口を開いた。
「薄いとうまくいかないので、まず厚みを出す。そしてまず高温で焼き始めて、一瞬膨らんでから温度を下げる。そうすると表面にカラメルができて、中はとろんとした状態に仕上げることができる」
そうして生まれた小嶋式バル風チーズケーキは、地域密着の店で着々とファンを増やしていった。