常識超えに潜むリクルートのリスク ハーバードの視点ハーバードビジネススクール教授 シカール・ゴーシュ氏(下)

佐藤 リクルートは今、信頼回復にむけて何をするべきでしょうか。

ゴーシュ 3つのステップがあると思います。1つめのステップは、自らの非を認めた上で、真因分析をすることです。内定辞退率販売に関わっていた人たちは、なぜ法律に違反してデータを販売するに至ったのか。その過程を人間的な観点から詳細に分析するのです。その要因は、上司から「売り上げをあげろ」と過剰な圧力をかけられたからかもしれませんし、あるいは単に法律を知らなくて、悪いことをしているとは思っていなかったからかもしれません。

2つめのステップは、個人データの管理方針と今後の改善策を世間に公表することです。

個人データの安全管理問題を解決するリーダーめざせ

3つめのステップは、デジタル時代における個人データの安全管理問題を解決するリーダーになることです。ご存じのとおり、グーグルもフェイスブックも同じ問題を抱えていて、世界的な問題となっていますから、ルールや管理システムを整備していくのは急務なのです。

今回の問題で、リクルートにはすでに個人データの管理やAI(人工知能)倫理についての知見が蓄積されているはずです。これらを生かし、さらに業界団体や大学などと共同で研究し、世の中のために役立つルールづくりをしていくことで、リクルートへの信頼は高まると思います。

佐藤 ハーバードビジネススクールで学ぶ学生や経営幹部にとって、なぜリクルートの事例を学ぶことが大切だと思いますか。

ゴーシュ 私たちは、起業家精神を教える上で、常に学生に刺激を与える先進的な事例を紹介したいと思っています。リクルートの事例は、「日本企業から起業家精神を学ぶ」事例ですから、それだけでも新しい。シリコンバレーのスタートアップ企業とは全く違った事例なのです。

次に、リクルートの事例からは「何がイノベーションの原動力になるのか」という本質を学ぶことができます。この事例は、企業の外部環境と内部環境の両方がイノベーションの原動力となることを示しています。

リクルートはリクルート事件の後、世間から厳しい目で見られることになりました。通常このような国を揺るがすようなスキャンダルを起こすと、会社を存続するのが難しくなるのですが、リクルートはこの経験から多くを学び、今に至っています。

またリクルートは紙からデジタルへという広告業界の変化にも直面しました。リクルートはこの変化にいち早く対応し、競争が激しい業界を生き抜いてきました。このような厳しい外部環境がイノベーションを生むきっかけにもなったのです。

一方、リクルートには企業内部からイノベーションを起こすことを促進する人事システムが確立されていました。自主性を重んじるシステムが、社員のレジリエンス(回復力)を鍛え、社員を成長させ、中から新しいビジネスを起こしていく力になりました。

その結果、リクルートは、「大企業になったのに、スタートアップ企業のような起業家精神をあわせもつ企業」になりました。近年のリクルートのグローバルビジネスの成長や業績には目をみはるものがあります。このような企業事例は類を見ないものであり、MBAの学生にとってもエグゼクティブにとっても学ぶ価値のあるものだと思います。

(上)社員の起業促せる不思議 ハーバードが見たリクルート
■「夢の実現装置」 ハーバードも驚くリクルートの強み
■リクルートは世界で成功するのか? ハーバードの視点

シカール・ゴーシュ Shikhar Ghosh
ハーバードビジネススクール教授。専門は起業家精神。MBAプログラムやエグゼクティブプログラムにて起業家的経営について教える。同校起業家養成センター「アーサー・ロックセンター」共同センター長。ボストンコンサルティンググループにてパートナーとして活躍した後、1988年、起業家に転身。インターネットマーケティング企業、オンラインショッピング企業など8社のIT企業のトップを務める。現在、教壇に立つかたわら、イノベーション、起業家精神、デジタルメディア、インターネットの未来などをテーマに世界中で講演を行う。

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