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ハーバードビジネススクール教授 サンドラ・サッチャー氏

ハーバードビジネススクール教授 サンドラ・サッチャー氏

世界トップクラスの経営大学院、ハーバードビジネススクール。その教材には、日本企業の事例が数多く登場する。取り上げられた企業も、グローバル企業からベンチャー企業、エンターテインメントビジネスまで幅広い。日本企業のどこが注目されているのか。作家・コンサルタントの佐藤智恵氏によるハーバードビジネススクール教授陣へのインタビューをシリーズで掲載する。リクルートホールディングスを教材にしたサンドラ・サッチャー教授は、同社のグローバル戦略にも着目する。

(上)「夢の実現装置」 ハーバードも驚くリクルートの強み
■社員の起業促せる不思議 ハーバードが見たリクルート
■常識超えに潜むリクルートのリスク ハーバードの視点

佐藤 サッチャー教授は2018年に「グローバル化する日本のドリームマシン:株式会社リクルートホールディングス」という教材を日本語と英語で出版されました。リクルートの教材はどの授業で教えられていますか。

学ぶのは再生と成長のプロセス

サッチャー シカール・ゴーシュ教授の「創業者の道のり(Founder's Journey)」という選択科目で教えられています。この授業は起業家精神について学ぶ人気授業で、毎年約150人の学生が受講しています。

ハーバードビジネススクール教授 サンドラ・サッチャー氏

ハーバードビジネススクール教授 サンドラ・サッチャー氏

日本でリクルートといえば、「リクルート事件」が有名なので、ハーバードの学生はリクルートから企業倫理を学ぶのではないか、と思っている方々もいるかもしれません。しかし「創業者の道のり」は起業家精神を教える授業ですので、事件そのものよりも、事件後、どのように再生し、成長し、グローバル化していったか、という過程に焦点が置かれています。

佐藤 学生からの反応はいかがでしょうか。

サッチャー 多くの学生が「日本にこういう企業があるとは知らなかった」と言っていたのが印象的でした。リクルートは様々なイノベーションを起こし、日本企業の伝統的な慣習を破ってきた企業ですから、彼らの想像する日本企業とは全然違っていたようです。学生は、社員個人のキャリアパス、夢、情熱などをもとに人事・組織システムがつくられていることや、社内、社外での起業を奨励する文化にとても驚いていました。

自立性尊重の買収戦略に学生から異論も

その一方で、リクルートがなぜ外国で買収した企業に対して、自社と同じシステムや企業文化を導入しようとしないのか、疑問に思っている学生もいました。リクルートは買収した企業の自律性を尊重し、問題がない限り経営や企業文化には干渉しない、という方針をとっています。これに対し「リクルートの人事・組織システムや企業文化は、日本企業特有のものではないし、欧米の企業でも十分成果を発揮するはずだ」と異論を述べる学生もいました。

佐藤 近年、リクルートは海外の企業を積極的に買収しています。リクルートのグローバル戦略をどのように評価していますか。

サッチャー リクルートのグローバル戦略の基本は、買収した会社の自律性を尊重することです。業績の立て直しや、リクルート本社との関係やシナジーの促進を目的に、日本から社員や役員が派遣されることはありますが、「買収した会社の経営は、そのままその会社にまかせるのがよい」というのが基本的な考え方です。

この方針はダイエー傘下時代に得た学びに由来しています。リクルートの峰岸真澄社長は、私と面談した際、次のように答えてくれました。

「リクルートの経営陣は、リクルートの企業文化を買収した企業に強制することが、必ずしもその会社の業績を効率的に上げることにつながらないと考えています。その企業の成長の原動力であった文化や慣習さえもつぶしてしまいかねないからです。それに他社・他国の文化を強制されると、社員のモチベーションは低下しますから、結果的に持続的な成長にはつながりません」

「このような方針をとっているのは、私たちにも買収された経験があるからです。1992年、リクルートはダイエーの傘下に入ります。ダイエーはビジネスモデルも企業文化も、リクルートとは全く異なる会社です。にもかかわらず、ダイエーの中内功社長(当時)は、リクルートの自律性を尊重してくれました。それが現在のリクルートの成長につながっています」

私はこの方針はリクルートの個を尊重する理念とも一致していると思います。買収された側の社員の幸せのことを第一に考えているからです。

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