理系は今こそ社長を目指せ 論理と数字が業績を伸ばす『技術者よ、経営トップを目指せ!』 五十嵐弘司氏

実は五十嵐氏自身も海外勤務がマネジメント層入りのきっかけになった。1998年からアメリカ味の素のアイオワ工場長として赴任。技術開発センター長を経て、上席副社長まで務めた。その後、日本に戻って、経営企画部長に就き、グループ経営の中枢にかかわる立場となった。開発現場を離れて知ったのは、自分たちが研究所や工場から生み出した成果を製品化して社会に貢献することの大切さだ。逆に、ビジネスをきちんと動かして、利益を出していかないと、研究環境を維持することさえ難しくなるという、経営の論理、ビジネスのシビアさも思い知らされた。「技術者は自分たちの研究環境を良好に保つためにも、自ら経営に参画する必要がある。好きな仕事は自分の手で守ってほしい」と説く理由だ。

技術分野は競争が激しい。設備や人材などの面で見劣ってしまうと、企業の成長力も陰ってしまう。だが、「技術的知見の乏しい経営者には、どのタイミングで、どんな開発投資が望ましいのかの見極めが難しい」(五十嵐氏)。枯れる技術や化ける分野を見定めるには、長期にわたって内外の研究状況をウオッチしておく必要がある。こうした知見を提供できるのも、経験の豊かな技術者ならではだ。四半期利益を求められる立場の経営者はしばしば目先の利益を追い求めるあまり、伸びしろの大きい研究プロジェクトを打ち切るような判断ミスを犯しやすい。株主にも消費者にも長い目で見て損になりかねない、こうしたあやまちを防ぐ意味からも、「技術者は経営に背を向けるべきではない」と、五十嵐氏はラボへの引きこもりを戒める。

報酬やポジションの用意も不可欠

マネジメント層に加わるにあたって、五十嵐氏が技術者に助言するのは、「言語の違いに気を配ろう」という点だ。技術者は数字や図で説明することを好む傾向がある。自分たちの使い慣れた「言語」だからだ。論理的で簡潔。誤解が生じにくい。でも、文系出身者には外国語と映りやすい。頭に入ってきにくいから、いらだちを覚え、技術者の発言そのものに不信や不満を募らせてしまう。「数字や図を使わず、具体的な事例を引き合いに出したり、例え話を織り込んだりしながら、丁寧に文章で説明しないと、無用のアレルギーを引き起こしてしまいかねない」(五十嵐氏)。逆に、こうした話法を操れるようになると、経営陣から重宝がられるという。

技術者が進んで「文転」を選びたくなるような報酬やポジションの用意も欠かせない。「技術者を研究所で眠らせておくのは、もはや逸失利益が大きすぎる。経営の真ん中に出てきてもらうには、企業側と技術者側双方の働き方イノベーションが欠かせない」(五十嵐氏)。次世代の経営人材は、意外と身近なラボで出番を待っているかもしれない。

五十嵐弘司
公益社団法人企業情報化協会代表理事副会長。東京工業大学大学院総合理工学研究科修了(工学修士)。1980年味の素入社。バイオ精製工程の開発に従事。98年からアメリカ味の素のアイオワ工場長、技術開発センター長を経て上席副社長。2009年、味の素執行役員経営企画部長。その後、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員に就任。経営の中枢を担った。

技術者よ、経営トップを目指せ!

著者 : 五十嵐弘司
出版 : 日経BP
価格 : 1,760円 (税込み)

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