理系は今こそ社長を目指せ 論理と数字が業績を伸ばす『技術者よ、経営トップを目指せ!』 五十嵐弘司氏

技術者のキャリア意識が足かせにも

「技術者自身が経営陣に参画する意欲を持つべきだ」と助言する五十嵐弘司氏

ただ、企業側が技術者を経営の中枢に呼び込もうとしても、技術者のほうが「転身」を嫌うケースもあるようだ。「自分の専門領域にタコツボ化してしまい、研究暮らしに安住したがる技術者は珍しくない」(五十嵐氏)。大学時代から専門分野で研さんを積んできただけに、全く経験のない「経営」という仕事に身を投じるのは、「それまでの苦労が無駄になるような気がして、メリットを感じにくい」という。企業側が大胆な人事で、研究所から引きはがす選択肢もあるものの、「意欲を失って、会社を辞めてしまうリスクが大きく、なかなか切りにくいカード」だ。やはり、技術者が自ら手を挙げて、マネジメント職を選び取るのが双方にとって望ましい形といえそうだ。

技術者が現場を離れたがらない理由には、ライバルとの競合関係もある。ラボを離れて、マネジメント職に就いている間は、研究・開発の実務面で仲間に後れを取る格好になりがちだ。仮に3年後、現場に戻っても、劣後分を取り戻せるかどうかは分からない。「競争のステージを離れるのは、技術者キャリアにとって致命的な後れになりかねないという懸念がタコツボ化を助長している」と、五十嵐氏は指摘する。だが、現実には研究所に閉じこもることによって、知見を広げるチャンスを逃しているという側面もある。「自分たちが打ち込んできた研究成果を世に出し、研究環境を守るためにも、経営の真ん中で声を上げる意味は大きい」(五十嵐氏)

企業側がキャリアパスのデザインを怠ってきたのも、技術者が「出世」を意識しにくくなった一因だろう。現在では最高技術責任者(CTO)というポジションが用意されている企業が増えている。しかし、どこの企業にもあるわけではない。やはりテクノロジーに強みを持つ企業が先行していて、文系企業は対応が遅れがちだ。メーカーの場合でも今なお「研究所長が技術系社員にとっての実質的なゴールと位置づけられているケースはざら」と、五十嵐氏は嘆く。所長になるのがキャリア上の夢だから、ラボを離れるのは、出世コースからはずれる悪手と考えてしまう。「将来のキャリアをイメージする際、範囲がラボに限定されていると、選択が保守的になりがち」。現場に籍を置きながら、経営に参画できるようなポジションの新設は、経営と研究の「回転ドア」になり得るだろう。

自分たちの研究環境を良好に保つ

五十嵐氏が日本の「病」と見なすのは、文系と理系を分けてしまう発想だ。企業内では「技術屋」とレッテルを貼ってマネジメントから遠ざけてしまう。経営判断もこなせる人材を、経営トップにつながる本流の出世コースからわざと排除するかのような人事政策は「もはや世界のトレンドに全く逆行している」という。日本でもグローバル企業では理系出身者がトップを占めるようになってきた。たとえば、経団連の中西宏明会長は米スタンフォード大学大学院でコンピュータエンジニアリング学の修士号を得た、筋金入りのエンジニア。日立製作所では工場での開発キャリアが長い。でも、欧州法人でマネージングディレクターを務めて以降、経営の中核を担うようになった。

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