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ロジカルな判断、データの読み解きなど技術系のスキルは経営に生きる(写真はイメージ)=PIXTA

ロジカルな判断、データの読み解きなど技術系のスキルは経営に生きる(写真はイメージ)=PIXTA

米グーグルは計算機科学の研究者2人が立ち上げた。米マイクロソフトは創業者も現最高経営責任者(CEO)も技術者だ。こうしたICT(情報通信技術)系企業だけではなく、技術者出身の経営者は欧米では珍しくなくなった。しかし、日本では技術主体の企業を除けば、まだ技術畑出身の有力企業トップはそう多くない。『技術者よ、経営トップを目指せ!』(日経BP)を書いた五十嵐弘司氏は「文系に偏った経営判断は時代になじまなくなりつつある」と指摘する。技術者が経営に参画する意義や、経営参加を促す方法を聞いた。

イノベーションが左右する現代の経営

東京工業大学大学院で工学修士号を得ている。味の素ではバイオ畑で開発職に就き、工場長や技術開発センター長を務めた。しかし、エンジニアでは終わらず、味の素の執行役員経営企画部長や取締役専務執行役員も歴任。経営の中枢を担った。「日本の大企業では大学の経済学部や法学部出身者が経営のかじ取りを任されるケースが多い。しかしイノベーションが求められる現代にあっては技術の素養を持つ経営トップが欠かせない。技術者自身が経営陣に参画する意欲を持つべきだ」と説く。

日本の企業では昔からジェネラリストを重んじる風土が根強い。バランスの取れた感覚は、社内調整に役立つと考えられてきた。企画部や社長室が経営中枢へのゴールデンコースとされてきたのも幅広い視野への期待が大きかったからだろう。一方、理系学部出身の技術者は「研究系の職場で、開発や改良などの成果を通してのみ勤め先に貢献する働き手と位置づけられてきた」(五十嵐氏)。要するに、経営者への道は文系出身者ほどには用意されていなかった。

しかし、事情は変わった。今やインターネット技術と無縁のビジネスはあり得ないかのような状況だ。人工知能(AI)やロボットの活用が加速。「HRテック」「エデュテック」などがもてはやされ、テクノロジーはビジネスの進化に欠かせなくなった。「技術者がオタク的に研究所に閉じこもっていては、勤め先企業が判断を誤りかねない。ラボを飛び出して、積極的に知見を経営判断に提供すべきだ」と、五十嵐氏は技術者の背中を押す。

投資に求められる数理的センス

ただし、ハードルは低くない。これまでも経営に参画するのにふさわしい知見を備えた技術系出身者はいたはずだ。でも、文系の経営陣は彼らを慎重に遠ざけ、経営の中枢に迎え入れようとはしなかった。「こわかったからだろう」と、五十嵐氏は文系経営陣の心理を読み解く。自分たちの知らない専門用語でまくし立てられ、知見の乏しさを暴かれるような思いをしたくなかったのかもしれない。「プライドの問題が大きかった」と、五十嵐氏は自らの経験も踏まえて語る。経営会議には参加しても構わないが、できるだけ黙っていてもらいたいという「置物扱い」を求める空気を感じたこともあるという。しかし、その立場に甘んじていては、貴重な技術的知見が経営に生かされなくなってしまう。

観光にも農業にも小売業にもQRコードやクラウドファンディングが当たり前の存在になった。マネー分野では金融工学やフィンテックという言葉が出現して久しい。昨年は「~ペイ」の乱立が話題になった。テクノロジーを味方につけられないと、生き残りが難しくなるなか、「文系出身の経営陣だけで企業のかじ取りを担うのは、危うさをはらむ」(五十嵐氏)。そもそも理系の発想を持つ働き手にとって、マネジメントは親和性が高いと、五十嵐氏はみる。財務分析はもとより、ロジカルな判断、データの読み解きなどは基本動作に近い。M&A(合併・買収)も手がけた五十嵐氏は「投資に求められる数理的センスも多くの技術者は持ち合わせている」という。

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