直接触れるお宝とは… 国宝の常識、あなたは分かる?
珠玉の美術品や建物など、国宝は各地にある。選び抜かれた「私たちの宝」なのに、知らないことも多い。クイズで1000人に聞き、回答を間違った人が多い順にランキングした。
1位 国宝が多い都道府県は?
(1)東京 (2)京都 (3)奈良
国宝の件数は東京(281)、京都(234)、奈良(203)の順で多い(2019年12月1日現在)。全体の64%がこの3都府県に集中する。東京が1位なのは博物館や美術館が多いためだ。例えば、東京国立博物館(東京・台東)は89件の国宝を所蔵する。正答率は11%と極めて低く、誤答は京都が54%、奈良が35%だった。
東京には建物の国宝は2つしかないが、その1つが東京のど真ん中の赤坂に東京ドーム2.5倍の敷地を持つ迎賓館赤坂離宮だ。海外の要人を迎える日本を代表する建物で、近代洋風建築の到達点と評される。1909年の創建から100年後の2009年に、明治以降の文化財としては初めて国宝に指定された。16年度から通年で一般公開され、本館と庭園は水曜日の定休以外は予約不要で参観できる(10~17時、受付は16時まで)。写真のライトアップは連休時など年数回のみ。
<正解は(1)>
2位 国宝でないのは?
(1)羽黒山五重塔(山形) (2)金閣寺(京都) (3)富岡製糸場(群馬)
羽黒山の五重塔は東北最古の塔とされる国宝。富岡製糸場は2014年世界遺産登録され、国宝にも指定された。金閣寺は国宝だったが、1950年の放火で焼失し国宝指定が解除。再建後、94年世界遺産に登録された。沖縄県の首里城も戦前は国宝。沖縄戦で焼失したが、首里城跡として2000年世界遺産登録。復元された正殿などは19年に焼失した。
<正解は(2)>
3位 国宝の総数は?
(1)1120 (2)3280 (3)1万3275
文化財保護法で指定した重要文化財のうち「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」を国宝に指定できる。つまり重要文化財から厳選したお宝が国宝だ。(3)1万3275は重要文化財の件数(国宝の1120件を含む、19年12月現在)。(2)3280は史跡名勝天然記念物の件数(同)。(2)の誤答が52%と多かった。国宝は絵画や仏像、刀剣などの美術工芸品と建造物の2種類ある。
<正解は(1)>
4位 三十三間堂の千手観音坐像、実際の手の数は?
(1)33本 (2)42本 (3)108本
三十三間堂(蓮華王院)の中央に安置されるのが像高約3.5メートルの千手観音坐像(ざぞう)。内陣の柱と柱の間が33あることから三十三間堂と名付けられたお堂とともに国宝指定。合掌した手を含めた42本の手で「千手」を表す。千は無限の意味を持ち観音の慈悲深さと力の広大さを表現する。左右にある計1001体の等身大の千手観音立像も18年に国宝に指定された。煩悩の数とされる108に引きずられてか(3)の誤答が52%と最多。
<正解は(2)>
5位 国宝に指定された作品がないのは?
(1)雪舟 (2)俵屋宗達 (3)葛飾北斎
水墨画家の雪舟は国宝作品が6点、俵屋宗達も風神雷神図など3点の国宝作品がある。一方、冨獄三十六景などの浮世絵を描き、国内外の画家に影響を与えた葛飾北斎の作品に国宝はない。実は、日本絵画の象徴的な存在である浮世絵には、重要文化財はあるものの国宝が1つもない。浮世絵は複製が可能な版画が多いためだ。北斎の代表作「神奈川沖浪裏」(写真)も海外含め本物が多数ある。
<正解は(3)>
6位 聖武天皇のゆかりの品が収蔵されている奈良・正倉院正倉の建築様式は?
(1)校倉造り (2)書院造り (3)寝殿造り
奈良・平安時代には重要な品を納める正倉(倉庫)が方々にあり、この正倉が集まっている場所を正倉院と呼んだ。東大寺の正倉院は往時の姿で残り1997年に国宝に指定。翌98年には「古都奈良の文化財」の一部として世界遺産に登録された。
もともと東大寺が管理していたが、現在は宮内庁が所管している。正倉院正倉は高床式で大きな三角材を井桁にくみ上げた校(あぜ)倉造り。60代の正答率が7割なのに対し、20代は3割を切った。
<正解は(1)>
7位 鑑真が建立し、金堂と講堂が国宝となっている寺院は?
(1)唐招提寺 (2)東大寺 (3)法隆寺
選択肢はいずれも奈良の寺。法隆寺、東大寺も国宝の建造物、仏像などが多くあるが、唐招提寺も金堂、講堂、宝蔵などの建物に加え、19年には木造薬師如来立像など6体がまとめて国宝に指定され、全部で13件の国宝を持つ。
唐招提寺は奈良時代に栄えた南都六宗の1つ、律宗の総本山。建立した鑑真は日本仏教史で欠かせない人物で、鑑真和上像は日本最古の肖像彫刻。51年に国宝に指定された。鑑真和上像を安置する御影堂のために、日本画家の東山魁夷が障壁画(ふすま絵)を描いた。
<正解は(1)>
8位 興福寺の阿修羅像の重さは?
(1)3キログラム (2)15キログラム (3)50キログラム
国宝の仏像の中でも人気が高い阿修羅像は、身長約153センチメートルでほぼ8頭身の抜群のスタイルだが、体重は15キログラムほどしかない。なぜそれほどまでに軽いのか。理由は脱活乾漆(だっかつかんしつ)造という技法によるため。粘土で作った原型に漆を使って麻布を張り上げ、最後に粘土を取り除く。
阿修羅像は「乾漆八部衆立像」と呼ばれる8体の群像の1つで、顔が3つに手が6本の「三面六臂(さんめんろっぴ)」の美少年の顔立ち。「荒ぶる神」のイメージとは裏腹の憂いを秘めた表情が見る者をとりこにする。
<正解は(2)>
9位 唯一、直接触れる国宝の仏像があるのは?
(1)京都 (2)鎌倉 (3)富山
鎌倉大仏の名前で親しまれている高徳院の本尊、阿弥陀如来坐像は直接触ることができる、ほかにはない国宝だ。拝観料20円で、大仏像の脇から内部に入れる。空洞になっている胎内を触り、写真も撮れる。親しみやすくて、まさに「国民のお宝」と実感できる国宝らしい国宝だ。
かつては大仏殿があったが、台風で損傷したといわれ、15世紀以降は今のむき出しのままだという。ちなみに富山県にも高岡大仏があり、奈良、鎌倉と合わせて日本三大大仏と呼ぶこともある。
<正解は(2)>
10位 奈良の大仏、奈良時代のそのままの姿が残っているのはどこ?
(1)右手 (2)頭部 (3)台座
鎌倉大仏と違い、世界最大級の木造建築の中に鎮座する奈良・東大寺の大仏。大仏殿(金堂)も大仏(盧舎那仏坐像、るしゃなぶつざぞう)も国宝だ。大仏は平安時代末期の1180年と戦国時代さなかの1567年に2回の兵火にあい、大仏殿もろとも焼損、焼失した。
しかし、蓮弁に縁どられた台座部分のほか、膝部分を中心に奈良時代に鋳造された部分が残っている。背中の下部は鎌倉時代、頭部は江戸時代に理想とされた顔に作られた。奈良時代の顔は今よりも面長だったと考えられている。
<正解は(3)>
個人所有や海外渡来品も
文化財保護法では、文化財を有形の文化財と無形の文化財に分けて文部科学大臣が文化審議会に諮問し、その答申を受けて決める。有形の重要文化財より、価値が高いものが国宝だ。文科大臣が指定した重要無形文化財を保持すると認定された人物を、通称で「人間国宝」と呼ぶ。
国宝には、個人が所有するものもある。美術工芸品893件のうち27件が個人のもの。売りたい場合、国が優先的に買い取る権利を持つが、文化庁が審査して買わなければ個人間で売買できる。また、893件のうち中国など海外から渡来した絵画や茶わんは117件。国宝は意外と国際的なのだ。
「ニッポンの国宝100」(小学館)の高橋建編集長は「国宝は国家の宝ではなく国民、私たちのもの。木や紙といった弱い素材が残るのは奇跡。若い人には、次の世代にしっかり引き継いでほしい」と話す。「自分の宝」がこんなにあると思うと、ワクワクする。
ランキングの見方
調査の方法
[NIKKEIプラス1 2020年1月11日付]
NIKKEIプラス1「何でもランキング」のこれまでの記事は、こちらからご覧下さい。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。