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火星・氷衛星に生命? 宇宙生物学、太陽系探査に期待

東京工業大学 地球生命研究所 藤島皓介(5)

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版
文筆家・川端裕人氏がナショナル ジオグラフィック日本版サイトで連載中の「『研究室』に行ってみた。」は、知の最先端をゆく人物を通して、世界の不思議や課題にふれる人気コラム。2020年の年明け前後の「U22」に転載するシリーズは「宇宙生物学」がテーマ。地球と地球外の生命をともに考える地平からは平和へのメッセージが聞こえてきます。

◇  ◇  ◇

さて、前回まで見たような実験室での取り組みが深まると、そこから発展していくものがある。研究というのはどの分野でも「深めれば広がる」ものがあると思うのだが、宇宙生物学の場合、それが激しい。

藤島さんの場合は、生命が「いかに」生まれたのかという関心を中心に据えていたわけだけれど、すると「どこで」ということも必然的に問わざるをえなくなる。たとえば、地球上の話に限るにしても、どこで生命にいたる化学進化や初期の生命の進化が起きたのだろうか、と。

「陸派か海派ってよく言われるんです。生命の起源といいますか、高分子の『紐』ができあがっていったのが、陸上の温泉みたいなところなのか、海底の熱水噴出孔のあたりなのか議論があります。ただ僕の研究で軸に置いてるのは高分子の起源なので、これができやすい環境がそれぞれにあった場合に、海だろうと陸だろうと宇宙だろうと、どんどん攻めなきゃいけないっていうことで、海洋研究開発機構JAMSTECの高井研さんたちとも共同研究しています」

高井研さんは、Webナショジオの人気連載でも知られる海洋微生物学者で「深海・地殻内生物圏研究分野」の分野長を務めている。生命の起源の研究では「海派」だと考えられる。おさらいになるが、この議論で「海派」が不利なのは、生命の元になるような高分子の紐がつながっていくためには、脱水縮合という化学反応が必要で、これはつまり「水」が抜ける反応だから水がたくさんあるところでは進みにくい、ということだ。

「それが、実はそうでもないかもしれません。高井さんに教えてもらったのですが、深海底によっては二酸化炭素がシャーベット状になったいわゆるハイドレートが溜まっているところがあって、さらにその下には液体の二酸化炭素が大量にあるんです。ここでは水の存在が限定されているので、スーパードライな環境とも言えます。海の中にですよ! ここに集まる有機物は脱水縮合を受けやすいと考えられるのでポリマーの紐ができる可能性があります。そこで、それを確かめるために、まずJAMSTECの研究者や慶應の学生と一緒に専用のリアクター(耐圧反応容器)をつくって、液体の二酸化炭素の界面で有機物が脱水縮合するかどうか確かめる実験をやります。さらに航海調査に出て、海底の液体二酸化炭素を直接採ってきて、その中に本当に何が溶けているか調べる予定です。アミノ酸がつながった疎水的なペプチドがもし見つかれば言うことないですが、全く予想と違うものがでてきても大興奮です」

このお話をした後で、藤島さんは高井さんらと実際にこの航海調査に旅立った。天候に恵まれない中、首尾よくサンプルの採集にも成功したとのことなので、そこに何が溶けていたのか新たな報告を待ちたい。

藤島さんの旅は続く。

あらかたの予想の通り、次は宇宙だ。なにしろ、今回の話題は宇宙生物学なのである。

地球上の話題に終始してきたけれど(そしてもちろん、地球は宇宙の中の一つの惑星なのだけれど)、もっと直接的に宇宙をみなければ、アストロバイオロジーの名がすたる! かどうかはともかく、ぼくは当然のように宇宙の話題を期待してきたし、読者もそうだろう。ましてや、藤島さんは、NASAのエイムズ研究センターの研究歴があり、一般読者からしてみると宇宙専門家のように見えるキャリアの持ち主なのである。

でも、藤島さんの研究から宇宙へとリフトオフするには、これくらいの足場を固めなければならなかった。藤島さん自身の準備としても、ぼくたちの知識の準備としても。

「宇宙生物学で宇宙の研究をする時に、大きく2種類に分けられると思います。一つは太陽系外の研究でこれは天文学的なアプローチが中心です。もうひとつは太陽系内で、こちらは天文学的な研究だけでなく、直接的な探査ができます。僕自身が興味があるのは太陽系内の方です。というのは、やはり自分たちがデザインした探査機を飛ばして、自分が生きている間に直接観測できるのが魅力的ですから。太陽系内で生命がいる可能性がある場所は幾つか候補が挙がっていて、そこを調べたいという気持ちが強いですね」

まず、太陽系外の研究というのは、今のところ大きな望遠鏡を使った系外惑星の発見などが中心だ。地球型の岩石惑星がどれだけあるか。それぞれの太陽からの距離やその他の軌道要素の関係で、液体の水が存在しうるか。さらには、望遠鏡で見ることができる、つまり光学的に確認できる生命の徴候(バイオ・シグニチャー)には何があり得るか。そういったことが議論されている。

一方で、太陽系内の探査は、探査機を近くまで飛ばして、あるいは着陸させて、直接調べることができる。うまくすれば試料を持ち帰るサンプルリターンもできるかもしれない。

では、太陽系ではどんな場所が、生命探査のターゲットになりうるのだろうか。21世紀になってから様々なニュースが報じられてきたけれど、整理する意味も込めてまずはそれらについて聞いていこう。そのうえで、藤島さん自身の研究計画についても伺おう。

「まず最初に挙げられるのは、火星ですね。火星には海岸線が見つかっているように過去に海があったというふうに言われていますし、今でも液体の水が季節ごとに染み出している場所も見つかっています。だから、現在でも地下に生命がひょっとしたら眠っているかもしれないと言われます。それと、火星のほうが地球よりも先に冷えて海ができたと言われているので、火星の海で先に誕生した生命が地球に飛来したという可能性もあります。火星に大きな隕石などが落ちて、宇宙まで舞い上がったものが地球に隕石として降ってきたと。地球に降ってくる再突入の際に表面は溶けますが中の温度はそれほど上がらないので、もし中に閉じ込められた生命がいた場合、高温にさらされることなく地球に到達する可能性があることが大気圏への再突入実験から言われています」

火星の探査は続々と計画されている。これまでは生命そのものというよりも、水の存在などを探していたのだが、ここから先、生命と直接関連性のある有機物、あるいは生命の痕跡を残す鉱物の探査などが始まる。本連載でも登場いただいたNASAのジェット推進研究所(JPL)の小野雅裕さんがかかわっているマーズ2020もそのひとつだ。

そして、宇宙生物学の文脈では、火星に生命がいる(いた)としたら、ひょっとするとそれが地球生命の祖先だったというSFめいた説も浮上する可能性があるのだという。実に壮大な話につながっている(地球と同じタイプの生命がいてびっくり! と思ったら、すでに送り込まれている火星着陸機にくっついて届いたものが広がっていたというふうなシナリオもありえて、それは惑星検疫という別のかなり現実的なテーマにもつながる)。

さらに、火星以外にも有力な場所がある。

「衛星の表面が氷で覆われている、Icy Moon、氷衛星と呼ばれているものがあります。近い順にいうと木星の衛星エウロパが今、探査の候補になっています。表面は凍っていて、内側に海があるに違いないといわれているものですね。NASAではエウロパクリッパーというミッションにお金が付いて、2020年前半に探査機が飛ぶと決まってます。NASAはさすがといいますか、海の専門家をちゃんとチームに引き入れて、地球外の海の研究をしつつ、そこでの酸化還元反応を含めて生命が使えそうな化学エネルギーがあるかというモデリングの計算もやりつつ、実際に生命徴候をどう探すか本気で考えています。日本でも負けじと近年、宇宙に広がる水惑星の形成や進化を生命までつなげる『水惑星学』が立ち上がったりと活発な研究活動が展開されつつあります」

氷衛星は、木星の衛星エウロパだけではない。藤島さん自身がターゲットとして考えているのは、別の惑星の氷衛星だ。

「僕自身は土星の衛星のエンケラドスに非常に注目しています。2005年に、カッシーニ探査機がエンケラドスの近くをフライバイしたときに、プリュームといって海の水が噴き出ているのを見つけたんです。そのプリュームの成分をカッシーニに搭載されている分析器で分析したところ、ほとんど水なんですけど、その中に単純な有機物や、ナトリウム、カリウムといった海に溶けている塩の成分が見つかりました。あと、ナノサイズのシリカの結晶が見つかって、そこから逆算して環境要件を絞り込んでいくと、60℃以上の熱水活動があり、水と岩石の相互作用もあるだろうと分かっています」

エンケラドスの内部の海には熱水活動があり、そこで岩石と水が相互作用している。これは、原始地球で生命を育んだ可能性がある海底の活動と似ている。

「要はエンケラドスの中心核を形成している岩石と水が反応することで、熱が発生して、そこでエネルギー源となる水素も出てくる。そこで水素を食うような、化学反応、それこそ生化学反応みたいなものがあるかどうかというのがターゲットです。僕自身は、今JAXA 宇宙科学研究所の矢野創さんと一緒に、エンケラドス探査実現のための肝となるサンプル採取・分析技術の基礎研究を進めています。矢野さんは『はやぶさ』と『はやぶさ2』探査の両方でサンプル採取装置の設計、開発、運用、回収を担当をされている方です。2010年に『はやぶさ』が帰還したときに、オーストラリアのウーメラ砂漠でカプセルを自ら回収して、宇宙研の分析施設までつきっきりで輸送を担当された人でもあります」

藤島さんや矢野さんが提唱するエンケラドス探査はまだあくまで検討段階だが、宇宙生物学の王道を行くものとして注目に値する。「はやぶさ」から「はやぶさ2」への流れでは、太陽系の由来を明らかにするという関心に加えて、水や炭素など生命にとって必須の物質の起源を問う方向へと関心がシフトしていったことを考えると、やはり今世紀の宇宙探査が目指す究極の問いは「宇宙における生命の起源」なのかもしれない。

=文 川端裕人、写真 内海裕之

(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2019年3月に公開された記事を転載)

藤島皓介(ふじしま こうすけ)
1982年、東京都生まれ。東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)「ファーストロジック・アストロバイオロジー寄付プログラム」特任准教授、慶應義塾大学 政策・メディア研究科特任准教授を兼任。2005年、慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2009年、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程早期修了。日本学術振興会海外特別研究員、NASA エイムズ研究センター研究員、ELSI EONポスドク、ELSI研究員などを経て、2019年4月より現職。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその"サイドB"としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。

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