『男はつらいよ』復活 寅さんの50年が映す新たな物語

『男はつらいよ お帰り 寅さん』は、山田洋次監督によるシリーズ22年ぶりの新作だ。夢をかなえて作家になった車寅次郎のおい・満男は、ある日、サイン会で初恋の人・イズミと出会う。満男とイズミは破天荒な寅次郎の昔話に花を咲かせ、つかの間の青春を取り戻す。

ポスターは、Mr.ChildrenのCDジャケットなどで知られるアートディレクター・森本千絵がデザインした (C)2019松竹株式会社

第1作の公開は約50年前の1969年。名優・渥美清演じる「フーテンの寅」が巻き起こす、笑いあり涙ありの人情喜劇が愛され、多い年には年3本のペースで新作を公開していた。しかし、96年に渥美が亡くなり、97年の特別編で終幕。49作までの累計観客動員は8000万人、興行収入は900億円を超える国民的シリーズとして邦画史に名を刻んだ。

今回の復活について、山田監督はこうコメントした。「先行き不透明で重く停滞した気分のこの国に生きるぼくたちは、もう一度あの寅さんに会いたい、あの野放図な発想の軽やかさ、はた迷惑を顧みぬ自由奔放な行動を想起して元気になりたい、寅さんの台詞にあるように『生まれて来てよかったと思うことがそのうちあるさ』と切実に願って第50作目を製作することを決意した」

当初は「どんなものになるか見当もつかない」(山田監督)状態だったが、49作を見返し、子どもから大人へと成長していく満男というキャラクターの面白さを発見。冒頭のストーリーが生み出された。

撮影は18年10月から約2カ月にわたって行われ、撮影には満男役の吉岡秀隆、イズミ役の後藤久美子、寅次郎の妹・さくら役の倍賞千恵子やその夫・博役の前田吟ら主要キャストが再結集。現代の新たな物語に、4Kデジタルで修復された過去作の映像を織り込んだ。

注目なのは、フィクションを超えた人間の成長・変化が作品に収められている点だ。通常の映画では、子ども時代は子役が演じ、年齢を重ねると特殊メイクやCGでエイジングが施されるが、本シリーズでは吉岡が満男の幼少期から現在までを本当に演じており、まるでドキュメンタリーを見るかのようなリアルさと情趣がある。

山田監督は「これは50年かけて作った映画。そんな作品は、映画の歴史の中でほかにないのは事実でしょうね。僕の演出がどんなに下手くそであろうとも、その年月の重みだけはきっちり伝わるのではないか。長生きして、こういうことができて良かった」と語っている(19年10月の第32回東京国際映画祭にて)。

本作で23年ぶりに女優復帰した後藤をはじめ、浅丘ルリ子や夏木マリ、佐藤蛾次郎ら懐かしい面々が顔をそろえる点も見どころだ。特に目を奪われるのは、吉永小百合、松坂慶子、竹下景子ら歴代マドンナがフラッシュバックされるシーン。そこには昨年10月に亡くなった名女優・八千草薫の姿も刻まれている。さらに山田監督のラブコールを受け、桑田佳祐がオープニングで寅さんにふんして主題歌を歌う。

昨秋に寅次郎の幼少期を描いたNHKドラマ『少年寅次郎』が放送され、過去作の4Kデジタル修復版も公開。多くの企業とのコラボも展開中。この冬、「令和の寅さん」が日本人の心を温めてくれそうだ。

山田洋次 1931年生まれ、大阪府出身。54年、東大法卒、助監督として松竹入社。61年に監督デビュー。69年に原作・脚本・監督を務めて「男はつらいよ」シリーズを開始した。その他代表作に「幸福の黄色いハンカチ」(77年)、「たそがれ清兵衛」(2002年)「母と暮せば」(15年)など。12年に文化勲章を受章。

(日経エンタテインメント!1月号の記事を再構成 文/泊貴洋)

[日経MJ2020年1月10日付]

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