かんきつ類+塩 鍋物・焼き魚からチョコまで魅力倍増
魅惑のソルトワールド(37)
ミカン・ゆずなど、かんきつ類のおいしい時期だ。かんきつ類は植えてから数年たたないと実がならないし、よく実る年と実らない年が交互にやってきたりする。それでも、古くは日本書紀の時代から私たち日本人の生活に寄り添って存在している。日本人のかんきつ類に対する愛情は特筆すべきものがあるといえる。今回はミカン塩やシークワーサー塩など、かんきつ類を活用した塩を紹介しよう。
まず、基となるかんきつ類について。その品種を調べてみると、世界で100種を超えるそうだ。ここでいうかんきつ類とは、ミカン科・ミカン亜科のカンキツ属、キンカン属、カラタチ属に属する植物の総称。このうち、食用として広く出回るのはカンキツ属とキンカン属である。特にカンキツ属は多種多様で、温州ミカンなどが含まれるミカン類やネーブルオレンジなどが含まれるオレンジ類、グレープフルーツ類、イヨカンなどが含まれるタンゴール類、ゆずやレモンなどが含まれる香酸カンキツ類などがある。
さて、私はかんきつ類の魅力といえば、何は無くともその香りだと思う。例えばゆず。アロマテラピーの世界では、ゆずの香りは食欲を刺激し、気分をリフレッシュしてくれるほか、消化を促す作用があると言われている。この香りは主にユズノンという香気成分が醸し出す。ゆずを調味料として使用する際には、いかにうまくこの成分を抽出するか重要となる。香りを強く出したい時は、果実を横半分に切って、切り口をすり合わせるようにして果汁を搾るとよいので、ぜひ試してみてほしい。
また、紅茶のアールグレイの香料としても知られるベルガモットも、高知県の「土佐ベルガモット」など最近は国内でも生産されるようになった。こうした「ご当地かんきつ類」も増えており、楽しみは尽きない。
最近では、規格外だったりして生の果実としては流通できないかんきつ類を活用した「ご当地かんきつ塩」と呼ぶ塩の生産も盛んになってきた。ご当地かんきつ塩は果実の有効利用だけでなく、塩という形状にすることで、季節に関係なく長期間保存でき、行楽などに手軽に持ち運べるメリットがある。さらに皮ごと利用したものが多いので、皮にある栄養もしっかりと摂取することができる点もうれしい。
かんきつ類のさわやかな酸味は塩味を補完する効果があり、使用量を減らしても満足しやすいので、塩分量を気にしている人にもうってつけだ。フルーツに塩をかけて苦味を消したり、甘味を引き出したりする食べ方もあり、味覚の面でもかんきつ類と塩は実は相性が良いと言える。ここで、近年私が気に入っているご当地かんきつ塩をいくつか紹介したい(ネット通販での税込み価格)。
●土佐ベルガモット塩(50グラム・756円) 高知県・はるのTERRACE
イタリアを原産とするかんきつ類で、アールグレイの香りづけに使用される。国内では栽培が難しいとされてきたが、高知県の旧春野町(現高知市)が栽培に成功。低温抽出法で精油したベルガモットオイルを、同じく高知県で生産されている完全天日塩とブレンドしている。少ししっとりとしており、うっとりとするような芳醇(ほうじゅん)な香りが特徴的。塩自体もクオリティーが高く、うまみや甘酸っぱさも感じられる。
●へべ塩(33グラム・700円) 宮崎県・熊野農園
「夏の酢みかん」とも呼ばれるヘベスの皮から1適ずつ抽出した香り成分を、環状オリゴ糖を介して粉末化したという。それを、満潮時の海水のみを使用して生産される海水塩「満潮の焼き塩」とブレンドした。ビタミンCが豊富で、しっかりとした甘味と爽やかな酸味、胸がすっとするような香りを楽しむことができる。
●シークヮーサー塩(20グラム・583円) 沖縄県・南西食品
沖縄県を代表するかんきつ類がシークワーサー。名産地である名護産のシークワーサー果汁を粉末化し、伝統的な沖縄風の入浜式塩田で生産された「屋我地マース」とブレンドしている。
●みかん塩(18グラム・432円) 愛媛県・伊方サービス
温州ミカンを皮ごとパウダー化し、ご当地の塩「伯方の塩」をブレンドしている。皮ごと使用するために、残留農薬のチェックは厳しく行っている。皮に含まれる「ベータクリプトキサンチン」が摂取でき、生活習慣病予防を気にする方にもおすすめだという。少し苦味があるが、それが焼き魚の焦げや油分との相性が良い。
なお、かんきつ類は糖度が高く塩とブレンドした際に固結しやすいため、固結防止剤が加えられているものも多い。添加物が気になる人はパッケージの裏面にある原材料表示をチェックするとよい。
様々なかんきつ塩を、どのように料理に活用したらよいのだろうか。家庭で簡単に楽しめる使い方を紹介しよう。
●鍋物に
シンプルな昆布だしや合わせだしの鍋の場合、おのおのの小皿に取り分けた後にかんきつ塩をふりかける。特に、少し同じ味を食べ飽きてきた頃に使うと、鍋の温かさでかんきつのさわやかな香りがふわりと立ち昇って鼻腔(びこう)を刺激する。新たな風味が加わるため、新鮮な気持ちで食べ続けることができるだろう。
●焼き魚に
この時期、脂ののった魚の塩焼きにもおすすめだ。焼く前にかけてしまうと、焼いている間にかんきつ類が焦げて炭化してしまうので、焼く前にかける塩は浸透脱水作用が働く程度のごく最小限にし、焼きあがった後に振り掛けるとよい。また、かんきつ類の風味が加わって爽やかになるだけでなく、かんきつ類の苦味と焼いた魚の苦味が同化してうま味をより濃く感じることができる。
●赤身の魚の刺し身に
新鮮な魚の刺し身を塩で食べさせる店も増えているが、実は赤身の刺し身では意外と難しい。赤身の魚の身に含まれる鉄分が塩によって引き出されて、ちょっと血なまぐさく感じてしまうことが多いからだ。その点、かんきつ塩ならば、かんきつ類の酸味がしっかりと赤身の魚の鉄分を打ち消し、うま味だけを引き立ててくれる。場合によっては少しこってりとしたタイプのオリーブオイルや、ゴマ油などをかけるのもおすすめだ。
●苦味のあるリキュールを使ったカクテルに
ジンを使ったり、グレープフルーツなど苦味のあるフルーツを使ったりしたカクテルを飲む際に、グラスのふちの一部にかんきつ塩をスノースタイルでつけておく。かんきつ塩がある部分から飲むと、カクテルとかんきつ塩の苦味が同化して打ち消され、カクテルの甘味やうま味がより引き立つ。さらに、かんきつ塩の爽やかな香りが加わることで、カクテルがまた新しい表情を見せてくれる。
●チョコレートにトッピングする
チョコレートとかんきつ類は非常に相性が良い。特に冬はこってりしたものが食べたくなる時期なので、塩分によって濃厚さが増したチョコレートはうれしく感じるだろう。この時期に多く発売されている口どけの軟らかな生チョコがおすすめだ。
このように、かんきつ塩は料理からデザートまで幅広い用途に使えるし、手軽に料理に新しい風味を加えることができる。1つ持っておくと便利なので、ぜひ色々試してお気に入りの1本を見つけてほしい。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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