火星探査機が地震観測 メカニズムは謎で科学者騒然

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/1/20
ナショナルジオグラフィック日本版

2018年1月に欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機マーズ・エクスプレス・オービターが撮影した、火星の赤道付近にあるケルベロス地溝帯の一部。大小のクレーターに覆われた火星の表面に、数本の深い亀裂が走っている(IMAGE BY ESA)

はるか遠く火星の埃っぽい表面に、ロボット地質学者が一人、地震による地下のかすかな響きに耳をすましている。赤い惑星の脈を聞くその耳は非常に敏感で、風がヒューヒュー吹く音や、つむじ風の低音や、地殻がひび割れる音など、多くの振動を拾うことができる。

2018年11月に火星に着陸したNASAの探査機インサイトが観測するシグナルの大半は、ぼんやりしたさざめきのようなものだ。だがその中に、大きく明瞭な振動が2つあった。科学者たちが震源を特定したところ、火星で初めて活断層帯が見つかった。成果は米地球物理学連合(AGU)の年次大会で2019年12月12日に発表された。

科学者たちは騒然

発表されたデータによると、2つの地震のマグニチュードは3と4の間だったという。地球の地震に比べると小さいが、火星で検出された地震の中では最大規模だ。科学者たちは2つの地震がどちらもケルベロス地溝帯で発生していたことを突き止めた。深い亀裂が何本も走るケルベロス地溝帯は、インサイトの着陸地点から東に約1600kmのところにある。

この研究成果は、査読付きの学術誌で掲載を待っている段階であり、インサイトに関わる科学者たちは、論文が正式に発表されるまでコメントは差し控えたいとしている。しかし、はるか数千万kmの彼方で活断層帯が発見されたとの発表は、地球を離れられない科学者たちを早くも騒然とさせている。

「火星の地質活動がどれだけ活発かに関する私たちの予想やモデルを、今回の測定結果と比較評価できるようになります」と米ノースカロライナ州立大学の惑星地質学者ポール・バーン氏は話す。なお氏はインサイトのチームには参加していない。「今回のデータで、火星は従来よりも少しだけ生きた惑星として見られるようになりました」

この発見が、人類の火星定住計画にどのような影響を及ぼすかはわからない。火星に活断層があるなら地熱エネルギー源として利用できるかもしれないが、振動は高感度の科学機器にとっては問題になるかもしれないと、火星を専門とする惑星科学者で、現在は人工衛星開発企業プラネット・フェデラル社の科学プログラム責任者であるターニャ・ハリソン氏は指摘する。とはいえ、いずれ火星に降り立った人類が直面する危機の中で、地震はそれほど大きなリスクにはならないだろうとバーン氏は言う。

もっと近い将来の話をするなら、今回の火星の地震は、インサイトが今後も新たな発見をもたらすことを期待させてくれる。インサイトのミッションは、現在の火星の地質活動を解明するとともに、(人体のエコー検査のように)かすかな振動を利用して、火星の内部構造のマッピングを目指している。

「火星の科学にとってはとてつもなく大きな取り組みで、非常に刺激的です」とハリソン氏は言う。

プレート運動がないのに、なぜ地震?

インサイトには、「惑星表面に設置された中では最高感度の地震計」が搭載されていると東京工業大学地球生命研究所の地震研究者クリスティン・ハウザー氏は説明する。インサイトの地震計は「地殻で生じたあらゆる『きしみ』や『うめき』」だけでなく、大気のさまざまな状態変化も検出できる。そして、ほかの検出器が測定する気圧、風速、気温などのデータとあわせれば、地震とそうでない現象を区別できる。

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