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象印の炊飯器大転換 おいしさ求め釜よりかまど炎再現

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NIKKEI STYLE

新製品が出る度に、さまざまな新技術を採用する高級炊飯ジャー。その中で、南部鉄器を採用した内釜「極め羽釜」で人気を得ていたのが象印マホービン(以下、象印)だ。ただ2018年、その南部鉄器の内釜をやめてしまう。長年販売し続けた南部鉄器をなぜやめたのか。そしてその代わりに採用した新しいIH構造は何が優れているのか。そして発売から約1年半が過ぎた今、路線変更は成功したのか。家電製品をレビューするために、一軒家を用意した家電プロレビュワーの石井和美さんが、開発に携わった三嶋一徳さんに話を聞いた。

限界が見えた内釜へのこだわり

――炊飯ジャーをずっと見てきた人間にとって、象印の炊飯ジャーといえば南部鉄器という印象が強いです。重厚感のある釜が特徴的でした。しかしそれを18年に潔くやめてしまったのにはとても驚きました。

確かにそうかもしれませんね。象印は10年に高級炊飯ジャー「極め羽釜」を発売して、その翌年に南部鉄器を使用した「南部鉄器 極め羽釜」を発売しました。この時期も内釜に特徴を出しているメーカーはありましたが、内釜ブーム全般を弊社がけん引していたと言えるほど、インパクトのある製品だったと思います。ただ18年に、本体の構造をリニューアルした「炎舞炊き」を投入したタイミングで、内釜に南部鉄器を使用するのをやめました。

南部鉄器を採用していた頃はずっと内釜にこだわった開発をしていたんです。でも釜を変えるだけでは限界も見えていた。何か別の方法を見つけないと、さらなる進化が止まってしまい、これ以上先はないと考えていたのです。そこで内釜ではなくよりおいしく炊くために何が必要かを見直しました。

その結果、生まれたのが、従来1つだけだった加熱用のIHヒーターを3つに増やした「炎舞炊き」です。IHの構造は1988年に他社から発売された「IHジャー炊飯器」からずっと変わっていなかったので、技術的には大きな変化となります。

――炎舞炊きは、3つのIHヒーターで火力をそれぞれ制御し、部分的に集中加熱をするという方式ですね。1つでまとめて加熱するのではなく、3つのヒーターが交代で内釜を加熱していく。この方式は業界初だと思いますが、なぜこのような構造にしたのですか。

ヒントは昔ながらのかまどです。かまどは炊飯の原点ですからね。おいしいごはんを炊くにはどうすればいいか、実際に奈良県立民俗博物館の古民家にあるかまどでごはんを炊いてみたりしながら研究を重ねました。

かまどで気づいた炎の動き

――高級炊飯ジャーを取材すると、どこのメーカーも必ず昔ながらのかまどの話が出てくるんですよね(笑)。でも、あまりピンとこないというのが正直なところです。多くの人たちは実際にかまどで炊いたごはんを食べたことがないと思います。そもそもかまどで炊くと、どうしてごはんがおいしくなるんですか。

一番素晴らしいのは火力です。かまどは土間にあるから、吹きこぼれも気にせずに、高火力で炊けます。ただおいしく炊けるかどうかは、実はまきをくべる人の技術によるところが大きいんですけど(笑)。「はじめちょろちょろ中ぱっぱ」というわらべ歌がありますが、あれはきちんとおいしく炊けるような仕組みになっているんですよ。お米の(甘みを増す)アルファ化が理想的で、おいしく炊ける要素が詰まっています。火力をきちんと調整するのが重要なんですね。

かまどで炊くごはんを研究して発見したのが、炎の動きでした。最初は昔の内釜の形や熱の伝わり方にばかり注目していたのですが、たまたま炎の動きを見ると、炎が動いている。かまどでお米を炊くと、大火力の炎が揺れながら釜底にあたり、部分的な集中加熱を繰り返して、複雑な対流が発生するんです。昔からあるものなのに、そこに気づいていませんでした。

かまどで得たヒントを基に、新しい炊飯ジャーでは加熱の仕方を工夫しようと考えたんです。

ただ問題は火力です。もっと対流できれば、お米の甘みを引き出せることはメカニズムとしてわかっていたのですが、日本のコンセントでは100Vしか出せない。海外だったら220V、230Vと出せるのですが日本では制限がありますから。

そこで1200WのIHヒーターを3つ搭載しました。それを交代で熱することで炎のゆらぎを再現したんです。その結果、100Vの環境でもお米を対流させることに成功したんです。

南部鉄器をやめた理由

――加熱の仕組みは分かりました。ただこれまでの知名度を考えれば、新しいメカニズムでも南部鉄器を使う方法もあったんじゃないですか?

このシステムだと、南部鉄器の弱みが浮き彫りになってしまうんです。

通常のIHヒーターは底の部分がすべて同じように加熱され、釜全体を温めます。一方、「炎舞炊き」は小さいIHヒーターが3つついていて、順番にローテーションで加熱していきます。それぞれのコイルの熱をすぐに伝えて順番に加熱させたいのに、南部鉄器は発熱効率や蓄熱性は高いですが、熱伝導率が低く、伝わり方がゆっくりなのです。

熱の伝わり方に関しては俊敏性が必要だったので、複数の素材を組み合わせた内釜を作りました。80%を超える発熱効率を持ちIHとの相性がとてもよい鉄、熱伝導率の高いアルミ、それにステンレスを組み合わせ、3つのIHヒーターで順番に熱するのに適した内釜になっています。

――南部鉄器の内釜はかなり重く感じましたが、炎舞炊きの内釜はずいぶん軽くなりましたね。

南部鉄器は5.5合炊きで質量が約1.8kgありましたが、「炎舞炊き」は約1.2kgになり、使い勝手もよくなったと思います。

社内外から反対もあったが…

――それにしても、あれだけ長く続けていた南部鉄器をやめることに対して、社内から反対の声はなかったのでしょうか。

ものすごくありました(笑)。

開発や営業の中にはさまざまな意見がありましたし、長年使ってきた南部鉄器はブランド力があるので、販売店からも異論はありました。

こちらにとっても南部鉄器をやめるのは、すごく勇気がいる判断でした。炊飯ジャーは弊社の屋台骨ですから、失敗は許されない。でも、そこであえて勝負をさせていただきました。「おいしくなる」という理由を社内外で丁寧に説明し、理解を得ることができました。

――勝負の結果は良かったみたいですね(笑)。

はい。発売して1年以上経過していますが、実際に製品を買っていただいたお客様からとても高い評価を得ています。お客様にアンケートをしたところ、南部鉄器のころは「おいしい」という回答が80%台でしたが、炎舞炊きは約95%の方に「おいしい」と答えていただけているのです。味には自信があります。

買ってから後悔してほしくない

――メーカーによって炊飯ジャーの特徴は違いますよね。炊けるお米の味も違います。象印にとっての「理想の炊きあがり」は、どういうものなのでしょうか。

弾力を残しつつ甘みを出すことを目指しています。おいしさの中には、食感、味、見た目の3つがあるんですけど、食感を残しながら甘みを出すのはすごくむずかしいんですよ。おかゆになるまでやわらかくすれば甘みは出ますから。でも食感はしっかり残したい。それを両立させることが理想です。

――炎舞炊きは121通りの炊き方ができるんですよね。

炊飯ジャーを長く開発していると、分かってくることも多く、炊き方のノウハウが蓄積されていきます。例えば予熱を長くするほどやわらかく、蒸らしを短くするとかたくなります。火力や圧力、時間を微妙に調整して121通りに炊き分けています。

――そこから好みを見つけるのは大変そうですが……

なので、アンケート方式を採用しました。食べ終わった後に、炊飯ジャーでアンケートに答えていただくのです。かたすぎたら「かたかった」、粘りがちょっと弱いなと思ったら「弱かった」と選択してもらえれば次の炊飯からは少しやわらかめ、粘りは強めに自動で調整されます。長く使えば使うほど、自分好みのごはんになっていくわけです。マトリックスなどで選ぶのはわかりにくいので、そこは設定を簡単にできるように配慮しました。逆に121の炊き方を一つ一つダイレクトに選ぶことはできません。

高額な炊飯器ですから、「買ったのは失敗だった」と感じていただきたくない。そのための重要な機能となっています。象印の炊飯ジャーのウリはうま味と弾力です。でも買った後に、もし弾力があまり好みではなかったら、アンケートに答えていただければわが家の好みのご飯に変えることができるのです。

――炊飯ジャーで炊飯後にアンケートに答える方法は変わっていますね。ユーザーはどのような反応でしょうか。

この機能は2013年から搭載しているのですが、他社にはないユニークな機能として、徐々に認知度が高まっている実感があります。ユーザーにアンケートをとったところ、使用率は50%を超えていました。

キッチントレンドはシンプルデザイン

――最後にデザインについても聞かせてください。象印は2019年、デザインも重視した「STAN.」シリーズから炊飯ジャーを発売しました。炎舞炊きシリーズにもシンプルなデザインが多いですね。

そうですね。デザインにも力を入れています。シンプルなデザインが多いと感じるのは、現在のキッチントレンドを反映しているからでしょう。お客様の好みが多様化しているんです。オープンキッチンが増えているので、キッチンになじむということが重要です。色柄もどんなインテリアにも合うモノトーンを採用しています。さらに炊飯ジャーは蒸気が出るのでリビングとダイニングの間にあるカウンターに置かれることも多い。ますますデザインは重要になってくると思います。

ちなみに炎舞炊きは「玉手箱」を意識しています。弊社の社長いわく、温故知新。昔ながらの玉手箱の中に最新の炊飯技術が詰まっているイメージです。

◇  ◇  ◇

取材の後、象印の大阪工場で生産ラインを見せてもらった。ひとつひとつ手作業で丁寧に組み立てられているラインを見学していると、IHヒーターが3つもあるため、通常の炊飯器よりも手間がかかっていることがよく分かる。

実際に食べてみると、甘みが強く、もちもちした弾力だ。以前よりもふっくらしており、ごはんだけでも飽きずに食べられるほどおいしい。炊飯器の老舗メーカーらしい意地を見せた「炎舞炊き」は、前モデルと比較しても計画比110%(2019年10月まで)と好調で、売り上げを順調に伸ばしているという。勝負に出た象印の今後に注目したい。

石井和美
家電プロレビュワー。白物家電や日用品などを中心に製品レビューを行う。レビュー歴15年以上。茨城県守谷市に家電をレビューするための一戸建てタイプ「家電ラボ」を開設。冷蔵庫や洗濯機などの大型家電のテストも行っている。

(写真 行友重治、渡辺慎一郎)

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