――なぜ大学院で金融専攻に転じたのですか。

「もとより人権には関心を持っていたので、大学生のときには人権運動などにも参加しました。もちろん人権は素晴らしいものですが、実際に参加してみて感じたのは『世の中は資本主義のルールでできている』ということでした。歴史的に見ても市民革命によって人権を確立したのは資本主義の領域にいた人たちです。ゲームのルールがそこにあるのならば、まずはそれを理解する必要があると考えました。真っ先に思いついたのが金融だったのです」

大学院で学んだ思考法

「海外のビジネススクールを受験したのですが、職歴がないなどの理由で不合格となり、国内の大学院への進学を決めました。大学院ではファイナンス研究科に進みました。先生のレベルがとても高かったですし、何よりも、論理立てて物事を考えることで、直感的には『違うかもしれない』と思えるような理屈にまでたどり着くという思考法が身につきました。これは現在、さまざまなことを考える上で、非常に役に立っています」

――今後、どのように活動を展開していきますか。

「会社設立から5年、マイクロファイナンスに関わる投資家たちに、私たちの存在を認識してもらえるようになってきました。現在、カンボジアやスリランカなど4カ国で事業を展開しており、融資先は50万人、グループの社員は3000人ほどの規模となりました。これを2030年までに、50カ国で1億人に届く金融サービスにすることが私たちの目標です。まだまだこれからです」

「そのためには、ただ対象国を広げるだけではなく、既存のマイクロファイナンスを最新のテクノロジーでより良いものにすることが必要だと思っています。より便利で安い金融サービスをより多くの人に届けるためには、テクノロジーの力が必要です」

「ゆくゆくは民間版の世界銀行を目指します」と慎氏は語る

「五常は何もないところから出発しましたが、日本の会社でもいろいろな国でマイクロファイナンスを手がけることが可能だということを示すことができました。ただ、『資本の論理』が壁になっている事実もあります」

「例えば、われわれが途上国にマイクロファイナンスのための合弁会社を設立する場合、多くの国では出資規制があるため、現地資本よりも低い出資比率でスタートします。ところが、事業の拡大に合わせて増資を進めると、われわれの資金力が圧倒的なので、ほぼ完全子会社化することとなり、出資額に応じて利益の大部分を得ることになります」

「これは資本の論理では正しいのですが、現地の人たちにすると『頑張っているのに、なぜ僅かしか得られないのか』となります。先進国が途上国で出資する場合、『フェアで対等』でなければ、関係が長続きしないと強く感じています。それを何らかの形で達成したいと思っています」

「現在を第1期とすれば、第2期はマイクロファイナンスの新しいモデルを構築すること、第3期はそれを世界中に広げていくことが目標となります。ゆくゆくは途上国の経済発展を支援する世界銀行の民間版を目指します」

慎 泰俊(しん・てじゅん)
1981年東京生まれ。2004年朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒、08年早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。大学院在学中の07年にリビング・イン・ピース設立、日本初のマイクロファイナンス投資ファンドを企画。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、14年五常・アンド・カンパニー創業。note(https://note.com/taejun)などで発信中。

(山田豊)


日本経済新聞社とコンテンツ配信プラットフォーム「note」が共同運営する学びのコミュニティ「Nサロン」は、慎泰俊氏とオリックスの宮内義彦シニア・チェアマンの対談「ビジネスを通じて社会を前に進めるには?」を1月28日(火)に都内で開催します。企業でCSR(企業の社会的責任)や社会貢献に関わる業務を担当されている方、ソーシャルベンチャー(社会起業)を考えている方など、幅広い皆さんの参加をお待ちしています。
https://eventregist.com/e/comemo202001finance

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