転職先でマウンティング 元大手の50代モンスター部下フェリタス社会保険労務士法人代表 石川弘子(8)

「I田さん、そうやって人の学歴や会社の規模をバカにする発言はよくないですよ。相手がどんな人間でも同じ会社の同僚なんだし、一定の敬意は払うべきじゃないですか?」

「敬意を払えるような相手であればね」

と、I田は相変わらずヘラヘラと笑っている。T中は怒りを抑えつつ、I田に言った。

「I田さんは確かに有名大学を出て大手企業を経てうちに来ました。うちは中小企業だし、I田さんから見たら下流の人間かもしれません。ですけど、少なくとも入社して2年間、全く我が社に貢献できていないI田さんよりはずっと会社に利益をもたらしている人間です」

I田は顔色を変えて、「自分は管理職としての能力を買われたんだ」「プレイヤーじゃなく、全体を見るのが仕事だ」などとまくしたてた。

「もういい、やめろ」

騒ぎを聞きつけて様子を見に来たW井社長が後ろから声をかけた。社長の一声でI田もT中も黙り込むと、あたりが静まり返った。

「I田さん。管理職として前職から引き抜いてきたのに、プレイヤーの仕事をさせてすまなかった。私のミスだ」

W井社長がI田に話しかけると、I田は溜飲を下げたのか、落ち着いて答えた。

「そうです。私は管理職という立場でこそ能力を最大限発揮できると思っています」

「いや、私は管理職として君を引き抜いたが、それ自体がミスだったと思っている。人を見下したり、バカにするような人間は、管理職には絶対にすべきではない。君の性質を見抜けなかった私のミスだ」

I田はW井の話に顔色を変えた。

「確かにうちの会社は中小企業で、大手から来た君から見れば、いろいろと不満はあるだろう。だが、うちの社員は全員優秀なメンバーで私は誇りに思っている。その社員を見下すような人間はうちでは必要ない。今日限りで辞めてくれ」

W井にきっぱりと告げられたI田は、恥ずかしさと怒りで声も出ず、そのまま黙って出ていった。

その後、I田はW社に対して、解雇に関する補償を求める文書を送ってきたが、最終的にはW社が給与の3カ月分を支払うことで合意した。

大手から中小に移るシニア人材の対処法

中小企業などでは、大手企業や金融機関から管理職として中高年の社員を迎えることも少なくないだろう。大手や金融機関で培った知識やスキル、人脈を中小企業で活かして活躍しているシニア人材も多数いる。

一方で、大手という看板につられて、実際の仕事ぶりや能力を精査せずに迎え入れた後、期待した仕事ぶりでないために持て余してしまうというケースも少なくない。また、大手と中小企業の文化の違いを受け入れられず、何かと批判的になるシニア人材の問題も聞く。こういった人材が社内の空気を悪くしたり、トラブルを持ち込む可能性も高い。

大手出身であろうが、仕事は結果がすべてであり、上司としては毅然とした態度で対処することが必要だ。一方で、長い職業経験からの貴重なアドバイスもあるだろう。有用なアドバイスについては、構えずに素直に聞く姿勢も必要だ。

いずれにしてもマウンティングをしたがる人は、少なからずコンプレックスを抱えているものだ。相手がどうしてそのような態度を取るのかを見極めて、不愉快な言動は改めてもらうように伝えたい。

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石川弘子
1973年福島県生まれ。青山学院大学経済学部卒業。フェリタス社会保険労務士法人代表。一般企業に勤務するかたわら、2003年に社会保険労務士資格取得、04年独立。産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格も保有し、中小企業から上場企業までさまざまな企業の労務相談を受けるほか、企業のメンタルヘルス対策などにも携わる。著書に『あなたの隣のモンスター社員』。

モンスター部下 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 石川 弘子
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 850円 (税抜き)

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