クラウド調達が生む世界 「カメ止め」映画の常識覆すクラウドファンディングが変える社会(1) MotionGallery代表 大高健志

モーションギャラリーをスタートさせてから8年。調達額累計30億円の実績もさることながら、私が実感しているのは確実に社会を変えてきたということです。

これまでに現代アートや音楽、演劇、漫画、アニメ、書籍、空き家のリノベーション(大規模改修)、まちづくりなど、さまざまなプロジェクトが誕生しました。これらの取り組みが社会に、そして個人に与えたインパクトを見て、「クラウドファンディングは社会を変革するものだ」とさらに強く信じられるようになりました

クラウドファンディングで制作資金を調達した作品で、世界で初めてカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選ばれたのは2012年、イランの巨匠、アッバス・キアロスタミ監督による日本を舞台にした作品「ライク・サムワン・イン・ラブ」でした。クラウドファンディングの超黎明(れいめい)期といえる時代にいきなり、国際映画祭の最高峰の1つであるカンヌに選ばれたという意味では、クラウドファンディングに対する社会の見方を変えた作品だったと思います。

クラウドファンディングは社会を変える

この作品の制作資金は2011年に、私たちモーションギャラリーが初めて手がけたクラウドファンディングで調達したものです。キアロスタミ監督は日本で制作資金を調達しようと考えていたのですが、東日本大震災などの影響もあり、既存の手法ではなかなか難しい状況でした。クラウドファンディングがなければ、彼の遺作となったこの作品は実現しなかったかもしれません。ある意味、重要な文化的功績を果たしたと考えています。

クラウドファンディングの可能性をさらに強く信じるようになったのは、映画界を飛び越えて社会現象にまでなった上田慎一郎監督の「カメラを止めるな!」(2017年公開)ではないかと思います。製作費300万円の約半分はモーションギャラリーで集まったものです。そして、興行収入30億円超の大ヒットとなり、キャストの知名度がヒットの勝率を握っているという映画界の常識を覆しました。

大ヒットとなった映画「カメラを止めるな」。キャストの知名度がヒットの勝率を握るという映画界の常識を覆した

ビジネスという観点からすると資金調達は難しい企画だったと思います。しかし、「共感」をベースにしてクラウドファンディングを利用することで、見事に目標金額を大きく上回る157万円を調達、制作が実現されました。まさに、「鶏が先か卵が先か」ではありませんが、「企画が先か予算が先か」で立ち往生しがちな映画制作プロジェクトに、進行を促す青信号を灯すのは、金銭的なリターンを求めるビジネスサイドの投融資ではなく、「面白い映画を見たい!」と観客として映画に向き合っている人たちの応援マインドである可能性を大きく示したものでした。

さまざまなクリエイティブな領域の中でも映画業界はレガシー(遺産)的なジャンルで、業界の常識や観客の関わり方を変えることが難しいところがあります。脈々と受け継がれてきて誰も変えようとしなかった潮流を、挑戦的な作家と観客そして我々モーションギャラリーが三位一体となって変化させたといえるのではないかと思います。

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