JALとANAの機内ワイン 高級ボルドーや日本ワインも
飛行機に乗る楽しみの一つとして飲食がある。その中でも航空会社が力を入れているのがワインだ。有名なソムリエが監修し、どのクラスのワインでも満足感がある。さらに、最近は空港のラウンジのワインも侮れない。
四半期でのワイン提供も始めたANA
ANAのワインは2000年に世界最優秀ソムリエを受賞したオリヴィエ・プーシエ氏、全日本最優秀ソムリエコンクールやアジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクールなどで優勝した経験のあるコンラッド東京のエグゼクティヴソムリエ森覚氏が監修している。世界、アジア、日本のそれぞれの優勝経験者がそろった形だ。この2人のセレクションは2018年からだ。
2019年12月からのワインプログラムでは、新しい試みをしている。これまで一年を通して提供できるワインを選んでいたが、1銘柄あたり数万本など、必要な本数が多くなるため、少量生産のワインは選びにくいといった問題があった。そこで、今回は四半期単位など、短い期間で提供するものも、セレクションに入れている。四半期ごとに機内食のメニューが変わるため、それに合ったワインを出せるというメリットもある。
今回、限定本数で入れているワインの代表が、フランス・ボルドーの「シャトー・コス・デストゥルネル 2008」注)。ボルドーの格付け2級のワインだ。長熟型のワインだが、10年を過ぎて飲みごろに入ってきた感じだ。ボルドーらしい、骨格のしっかりした味わいで、牛肉に合わせるのにぴったりだろう。何よりも、高級ボルドーを飲んでいるという満足感がある。調べてみたところ、「ワイン・アドボケイト」という世界で最も支持されているワイン評価誌で95点という高い評価を得ている。森覚氏は「機内ではデカンタージュできないため、おりが少ないものを選んだ。そして何より今飲んでおいしく、価値があるものとして選んだ」と説明した。
注)シャトー・コス・デストゥルネル 2008は2019年11月の欧州路線ファーストクラスと12月の北米路線ファーストクラスで提供されて、すでに終了している。
ファーストクラスでは「日本ワイン」(日本国内で栽培されたぶどうを100%使用して日本国内で醸造されたワイン)も提供している。「ソラリス 信州千曲川産メルロー 2016」と勝沼醸造の「アルガブランカ イセハラ 2017」だ。「日本ワインは品質がまだまだといわれるが、厳選したワイン、一時的(な提供)でもいいものを出したいという思いから選んだ」と森氏。インバウンドの観光客に、日本に来る際、また帰るときに日本への思いをはせてほしいと語った。
日本人が海外の産地で作るワインもある。「ノリア・シャルドネ・サンジャコモ・ヴィンヤード 2017」は中村倫久(のりひさ)氏がカリフォルニアのソノマのブドウで作るワイン。故中村勘三郎さんが好きだったワインとしてテレビ番組で紹介されたこともある。「紫鈴(りんどう) 2016」は、ゲーム会社カプコンの創業者辻本憲三氏がカリフォルニアのナパに作った「ケンゾー・エステート」製。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー種などのブレンドでふくよかで濃厚な味わいのワインだ。
ビジネスクラスでは、春夏はさわやかなもの、秋冬は重厚でふくよかな味わいのものを選んでいるという。ボルドーのワインでは「シャトー・カスティジャン 2016」があるが、「機内では酸味やえぐみを強く感じるのでなめらかな味わいのもの」というのが選んだ理由だという。
オーストラリアの「スカットルバット ソーヴィニヨンブラン セミヨン 2018」はプーシエ氏と森氏がブラインド(銘柄を伏せて試飲すること)で選んだワイン。酸味がしっかりしていて料理にとても合いやすい。以前は酸味が強いものは選ばなかったが、季節ごとに選ぶのであればラインアップに必要だと考えて入れたのだという。
また、新たにポートワイン「キンタ・デ・ラ・ロサ・ファイネスト・リザーヴ・ポート」をラインアップに加えた。ポートワインはワインの発酵途中でブランデーを加えて発酵を止めるため、イチゴジャムのように甘くアルコール度数が高い。チョコレートなどによく合う。
プレミアムエコノミーとエコノミーではオリジナルの白と赤を提供する。プーシエ氏が監修しており、19年8月から第2弾になった。このほか、スパークリングワインもある。
「ANA SUITE LOUNGE」ではロゼワインを2種類用意しているのが興味深い。スペインの「ビーニャ・レアル ロサード」とフランス・プロバンスの「ミラヴァル/ロゼ」で、後者は以前ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー夫妻(当時)が所有していたことで知られている。近年、世界的にロゼの人気は上がっており、それを反映した格好である。
JALはラウンジのワインで冒険
JALはワイン界最高の資格といわれているマスター・オブ・ワインを日本在住の日本人として初めて取得した大橋健一氏と、銀座レカンのシェフソムリエなどを経てワインテイスター・ワインディレクターとして活動する大越基裕氏がアドバイザーを務める。
エコノミークラスとプレミアムエコノミークラスでは、この2人の頭文字から名前を取った「DOUBLE "O"(ダブル・オー)」というオリジナルワインを提供する。
ベースになるワインを150種近くも2人で試飲してブレンドを決めたという。ベースには様々な国のワインが含まれていたが、最終的に選んだのはすべてフランスワインだったので、フランスで製造している。187ミリリットルのペットボトルに入った飲みきりサイズだ。かつては、このサイズでもガラスのボトルを使っていたが、ペットボトルになって大幅に軽量化したほか、ボトル同士がぶつかっても大きな音がしないので、フライト・アテンダントの作業が楽になったという。
ダブル・オーの赤はグルナッシュ・ノワールをベースにシラー、マルセラン、カリニャンさらに白ワインのマスカットを5%加えている。ふくよかでやわらかな味わいで普段飲みのワインにしたいくらいのおいしさだった。一方、白はグルナッシュ・ブランを中心にマスカット、ヴェルメンティーノ、ヴィオニエ、ゲヴェルツトラミネールをブレンド。爽やかで香りよく、わずかに甘さがあってこれもとても飲みやすいワインだった。
ファーストクラスではシャンパーニュの「サロン 2007」が一番の目玉。複数ヴィンテージのブレンドが基本のシャンパーニュにおいて、単一ヴィンテージ、単一畑、単一品種にこだわり、ブドウの品質が高い年にしか作られない孤高のシャンパーニュ。店頭価格で10万円近くもするワインだ。
また、19年から提供を再開したのがボルドーの3級ワイン「シャトー・ラグランジュ 2013」。サントリーが復活させたワイナリーとして知られている。大橋・大越両氏が試飲して良好なビンテージを選んだそうだ。
日本ワインでは19年9月から20年2月までは、勝沼醸造の「アルガブランカ イセハラ 2016」を提供。ANAで出しているもののヴィンテージ違いだ。ANAでもJALでも飲めるのは珍しい。ちなみに機内で提供するワインの入れ替えは基本的には半年単位。海外の各空港にも在庫を置く必要があるため、四半期ごとに替えるのは難しいという。
ANAと同様、日本人が海外で作るワインもラインアップに入っている。「クスダ マーティンボロ ピノ・ノワール 2016」は楠田浩之氏がニュージーランドで作るワイン。今や大人気で入手が難しいワインとしても知られている。「シャトー・イガイタカハ 園 ピノ・ノワール 2015」は杉本隆英・美代子夫妻のブランド。畑やワイナリーなどは持たず、カリフォルニアの著名なワインメーカーとのコラボによって作るユニークなワインだ。
また、JALで注目なのがラウンジのワインだ。機内のワインは比較的メジャーなものをそろえていくのに対し、「ラウンジは面白いものを提供する」(JAL商品・サービス企画本部開発部空港サービス・客室仕様グループマネジャーの相原光氏)という。ラウンジの方が機内よりも使う本数が少ないので、少量生産の生産者も採用しやすいという。
例えば、変質の恐れのある自然派のワインとして、フランス・ボージョレのマルセル・ラピエールのワインを提供していたこともある。現在のラインアップでは、ワイン発祥の地であるジョージアのワインや、世界的に注目が高まっている南アフリカのワインを提供している。
特に面白いのがファーストクラスラウンジで提供しているジョージアのワイン。「Rkatsiteli(ルカツィテリ)」という白ワイン用ブドウを使って作る「オレンジワイン」だ。白ワインはブドウを圧搾し、果汁だけを発酵して作るが、オレンジワインは赤ワインを作るときと同じように果汁と果皮が接触した状態で発酵させる。皮からうまみなどの成分が溶け出し、薄いオレンジ色に色づく。味わいもスパイスやハーブ、ナッツなどの味わいが増すのが特徴だ。ただ、普通の白ワインのようにクリアにならず、濁りがあったり、浮遊物があったりするので、提供する側も飲む方もそれを分かっていないと問題が起こりやすい。また、オレンジワインには癖の強いものも多いので、かなりの冒険である。
実際に試飲してみたところ、オレンジワインとしては比較的おとなしい作りで、飲みやすく、うまみも強い。ラウンジでちょっと変わったワインを飲んでみたいと思う人に人気が出そうだ。
(デジタル編集部 松原敦)
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