年金改革、増える「選択肢」 受給額は物価ほど増えず

働くシニアがもう一つ注目したいのが「在職定時改定」の導入だ(図D)。厚生年金は原則、払った保険料をもとに金額が計算されて65歳から受け取る。65歳以降も働いて保険料を払う人については、例えば70歳で退職したときにまとめて年金額に上乗せするのが現行の計算方法だ。

これを改め、毎年1回計算して年金額に反映する仕組みにする。保険料を払い続けていれば70歳になるまでは毎年、受け取る年金額が増えていく。図のケースでは現行で70歳未満で給付されない上乗せ部分が改正後はもらえるようになる。

改正案は厚生年金の適用拡大を除き、時期などは明らかになっていない。受給開始が近づいてきた人は特に実施時期に注目したい。

これらの改正案とは別に現役世代が知っておきたいのが「標準報酬月額」の上限引き上げだ。標準報酬月額は毎月の厚生年金保険料を計算する際の基準で、月給などの報酬を便宜的に区分けしたもの。

現在、標準報酬の上限は31等級、月額62万円だ。実際の報酬が「60.5万円以上」ある人はこの上限等級に含まれ、保険料は頭打ちとなる。月額62万円に保険料率18.3%(労使合計)を掛けた数値が保険料だ。

「スライド」実施へ

国は20年9月から上限を引き上げ、32等級、月額65万円を加える方針だ。平均標準報酬の2倍が上限を超えて続けば引き上げが可能とした法律に基づいて判断する。実際の報酬が「63.5万円以上」あると等級が格上げされる形となり、保険料負担は増す。

現在の上限31等級に該当する人は約290万人(17年度末)おり、このうち多くは等級が上がりそうだ。みずほ総合研究所の堀江奈保子主席研究員は「将来もらえる年金額も増えるが、保険料負担は企業、本人それぞれで年3.3万円増す」と説明する。

一方の年金受給者にとって気になるのは年金額だろう。20年4月からの年金額は1月下旬に公表されるが「マクロ経済スライド」が2年連続で実施され、抑制される見通し。賃金・物価の伸びを基にした本来の年金改定率から、現役世代の人数や平均余命の伸びを勘案したスライド調整率が差し引かれるからだ。

「年金改定率は物価上昇率を下回り、年金額は微増にとどまる」と堀江氏は予想する。「年金額は増えても、それで買えるものは少なくなるので年金の実質的な価値は減る」(中嶋氏)

受け取り始めた後の年金が物価に見合って増えたのは過去のこと。現在は現役世代の賃金との連動を強めている。物価が上がっても賃金が減れば年金は増えないし、物価が大幅に上がっても賃金が小幅上昇にとどまれば賃金の方に合わせる。さらにマクロ経済スライドによる抑制も加わる。20年以降も年金はさほど増えないことを念頭に、生活設計するのがよいだろう。

(土井誠司)

[日本経済新聞朝刊2020年1月4日付]

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