――「過去の亡霊」型に分類された「そごう」編は、「勝利の方程式」が自らの首を絞めてしまった点にフォーカスされています。

荒木 1962年の社長就任以降、カリスマ経営者として君臨した水島広雄氏は「百貨店の独立法人化によるチェーン展開」という勝利の方程式を編み出しました。出店予定地周辺をあらかじめ買い占め、出店で地価を上げることで資産を増やし、担保力をつけて黒字化した独立法人が、新しい店舗(独立法人)の債務保証をしながら資金を調達し、また新たな店舗を展開するというサイクルを作り上げたのです。

しかし、これは地価の上昇が前提条件。地価の上昇が続いた89年までは拡大サイクルが回っていましたが、バブルが崩壊するとすべてが「逆回転」することに。2000年にはグループ各社が一斉に民事再生法を申請するに至ります。

――新たな勝利の方程式を生み出すことはできなかった。

荒木 本来、戦略を立てるにあたって考えるべきことがゼロから10まであるとしましょう。ゼロにあたるのは、「なぜ人はモノを買うのか」といった哲学的な観点になると思いますが、いったん勝利の方程式が確立された後には、そうした「ゼロベース思考」はむしろ邪魔になります。

現場の社員たちは、ゼロから8まではもう疑わなくていい。店舗の出店計画などは「上」に任せて、目先の売り上げを上げるための9と10だけ往復していればいい。7とか6まで戻ったりするのは時間の無駄。ましてや0とか1に戻ろうという人はいなくなっていく。

――そんな状況で勝利の方程式がご破算になったら、修正は困難ですね。

荒木 問題は目的と手段の関係性にあります。人々の生活を便利に豊かにしたいといった目的があり、そのために百貨店を作り、売り場を充実させ、接客を磨き……というように、まず目的があって、それを実現するための手段があるわけですが、我々はいつの間にか手段にこだわり始めます。手段の目的化ですね。そうやって手段にこだわり始めると、見失ってはいけないはずの高次の目的について、誰も考えが至らなくなる。

――しかし重要なのは……。

荒木 それが無駄と思われるようなときにも、あえてゼロに立ち戻ること。そう考えると、経営者は「暇」じゃなきゃいけない。自らゼロに立ち戻る習慣を欠かさず、しかも、社員たちにもゼロに立ち戻るように問いかけ、導くための時間を持つべきなのです。

「9と10の往復」だけで目先の成果を上げ、思考が停止している現場に「ゼロから考えろ」と言っても、「また何か面倒くさそうなことを言ってるな」などと思われるだけかもしれません。しかし、それでも現場に「揺らぎ」を与え、考えさせることを続けなきゃいけない。

理想は「暇で本質的な経営者」ですね。自分だけがビジネスモデルをわかっていてもダメ。それを現場と共有するための余裕と根気こそが重要だと思います。

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分析脳が会社を滅ぼす