ストレスに気づかない、あるいはストレスを認めようとしない背景には、「自分はメンタル不調になるタイプではない」などという意識がある場合があります。高い能力を備え、自信に満ちあふれた人なら、なおさらでしょう。もしかしたら、それは仮面をかぶっているのかもしれません。まじめで責任感の強い人ほど、「簡単に弱音は吐けない」「元気のないところはみせられない」と思ってしまうのかもしれません。

また、落ち込み、不安、恐怖などの精神症状ではなく、身体症状として現れる背景には、無意識のうちに、心的影響の原因を無視し、心的葛藤を回避しようと、身体症状を示すことで自分の精神状態を守っているのかもしれません。

身体表現性障害と似た症状としては、「心身症」があります。胃潰瘍やぜんそくなど、機能的な障害がはっきりと現れていて、ストレスがその原因と考えられる場合があたります。また、いわゆる「仮面うつ病」は落ち込みや不安などの精神的な症状よりも、倦怠(けんたい)感や食欲不振、頭痛、腹痛など身体的な症状の訴えが目立つのが特徴です。

まずはセルフチェック、周りに相談を

職場で同僚や上司がこうした病気であると見抜くことは難しいでしょう。しかし、会社を遅刻、欠勤するほど、下痢や便秘、腹痛、めまい、動悸などの症状があるのであれば、たとえ本人が「ストレスはない」と言っていても、身体表現性障害などの可能性を踏まえ、丁寧に話を聞いてあげるなどしてみてはいかがでしょうか。

また、厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」などを使ったセルフチェックや、産業医との健康相談をすすめてみるのもよいでしょう。厚労省の「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」(http://kokoro.mhlw.go.jp/)には職場でのストレスを自己測定するコンテンツもあります。自分自身でこうしたセルフチェックを利用し、ストレスがあることを早く気づき、ストレスをためないように工夫することが大切です。

また、先に示した、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の職業性ストレスモデルが示すように「緩衝要因」、すなわち周囲のサポートは「ストレス反応」から「疾病」に発展するのを防いでくれます。もし、少しでも気になる点があるようなら、家族や友人、職場の上司や同僚はもちろん、カウンセラーや専門医など、信頼できる相手に相談することをおすすめします。

ほかの精神疾患と同じように身体表現性障害も治癒するには年単位の長い時間が必要となります。周りの方は長い目で見守っていただきたいと思います。

植田尚樹
1989年日本大学医学部卒、同精神科入局。96年同大大学院にて博士号取得(精神医学)。2001年茗荷谷駅前医院開業。06年駿河台日大病院・日大医学部精神科兼任講師。11年お茶の水女子大学非常勤講師。12年植田産業医労働衛生コンサルタント事務所開設。15年みんなの健康管理室合同会社代表社員。精神保健指定医。精神科専門医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。

※紹介した事例は個人を特定できないように一部を変更しています。

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