いよいよ5G 専門家3氏が予測する20年のデジタル

ロイター
ロイター

2020年、デジタル関連製品ではどのようなものがはやるだろうか。また、これからどんな技術が伸びてくるだろうか。AV/デジタル機器に強い西田宗千佳氏、モバイル業界に詳しい佐野正弘氏、パソコンを中心としたデジタル機器の記事を長年書いている戸田覚氏のMONO TRENDY連載陣はいずれも次世代モバイル通信規格5Gを挙げる。

佐野:スマホ値引き制限で5Gの普及に懸念

今年、国内で最も大きなトピックとなる技術は、やはり東京五輪に合わせて商用サービスが開始される予定の「5G」ということになるだろう。

5Gは製造業や農業など、あらゆる産業のデジタライゼーションを推し進める(あらゆるモノがネットにつながる)IoTを支えるネットワークになり得る存在として、どちらかといえば消費者よりも産業界から大きな期待が寄せられている。5Gには高速・大容量通信のほか、超低遅延や多数同時接続といった特徴があるが、サービス開始当初の5Gは、その1つである高速・大容量通信しか実現できないので過度な期待は禁物だ。

だがそれでも、2時間の映画を数秒でダウンロードできるという超高速通信を実現できるインパクトは大きいだろうし、携帯電話各社も消費者の関心を高めるべく、当初は5Gの高速通信を活用した先進的なデバイスやサービスをアピールしてくるはずだ。特にメガネ型の拡張現実(AR)・仮想現実(VR)デバイスと5Gの高速通信を組み合わせ、東京五輪で盛り上がるであろうスポーツを中心とした、新感覚のコンテンツやサービスは従来以上に積極的に提供される可能性が高い。

アニメ「ドラゴンボール」の技を体験できるVR(東京都新宿区の「VR ZONE SHINJUKU」)

一方、5Gの普及を考える上で非常に気がかりなのが、19年10月に改正された電気通信事業法の影響だ。この法改正によって、携帯電話会社は従来の「実質0円」販売に代表される、スマートフォンの大幅値引きが禁止されたことは記憶に新しい。

しかしながら当初の5G対応スマホは、10万円を超えるようなハイエンドモデルが大半を占め、値引きがなければ消費者には購入しづらいと考えられる。法改正による値引き規制が5Gスマホの販売不振を招き、日本での5Gの普及を大きく遅らせてしまうことが大いに懸念される。

佐野正弘
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。NIKKEI STYLEに「佐野正弘のモバイル最前線」を連載中。

西田:5Gは「理想と現実」で揺らぐ時期

今年は日本で5Gがスタートする年だ。だが、5Gがスタートしたからといって、いきなりなにかが変わることはない。むしろ5Gに対する幻想がなくなり、「5Gで本当に社会を改革するにはなにが必要か」を考える必要が出てくる時代になるだろう。5Gがいきなり日本全国津々浦々で使えるわけではないし、5Gスマホが手に入っても、変わるのは通信速度くらいのものだ。「5Gを生かすにはどういうシステムとどういうデバイスが必要か」を考えるのは、5Gのインフラが現実のものとなってからであり、それは先にサービスがスタートしている諸外国ですら、今年ようやく始まる。日本も同様だろう。今春には5Gの搭載されたAndroidスマホが、秋には5G搭載のiPhoneが登場するだろうが、それで大きくなにかが変わるわけではない。

一方、5Gをベースに、通信の使われ方は変わる。「ギガが足りない」ことに悩む料金体系から、大容量・使い放題型にシフトしていくだろう。逆にいえば、月に2ギガ(ギガは10億)バイト(GB)程度の低価格プランは今の5Gだとあまり価値が出ない。当面は比較的高い料金プランで「使い放題型」に近い形になっていくと想定される。結果として、動画配信などのサービスには追い風。携帯電話事業者もそうした事業者と提携し、「使い放題に近いプランを契約している人にはサービスを割り引く」流れになっている。日本では分離プランの影響もあり、スマホ本体を値引くのが難しくなっているため、こうした施策は続くだろう。すなわち、家計の中でサービス費用と通信費用をまとめて考え、何が得かを計算する必要があるのだ。これはこれで分かりづらく、面倒くさい話ではある。

ハードウエアはまだ急には変わらない。ARを使ったスマートグラスなどの市場は、おそらく21年から22年が立ち上がりの時期。今年は初期の製品が出る段階だ。スマホも、二つ折りなどの商品が出始めているものの、まだまだ「5Gによって増える発熱や処理負荷をどう解決するか」で戸惑っているレベルで、大きなジャンプはない。

米マイクロソフトのARメガネ「ホロレンズ2」

すなわち、今年は「準備の時期」であり、5Gインフラの価値を見極める時期である。変化の兆しは今年からはっきりと見え始めるが、「あなたの生活」が変化するのは来年以降だろう。

西田宗千佳
フリージャーナリスト。1971年福井県生まれ。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、ネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。NIKKEI STYLEに「西田宗千佳のデジタル未来図」を連載中。

戸田:5Gでストレージはサブスクリプションに

今年は5Gのスタートが大きなトピックだ。これにより、スマホの料金体系も変わらざるを得ないだろう。データの量に対して課金するのは、徐々に難しくなると予想する。通信が速いほど、大量のデータを短時間でやりとりしてしまうからだ。同時に、動画見放題の競争が激化すると予想する。

5Gによって、デバイスも変化するはずだ。高速で常に接続している環境になると、端末側のストレージはあまり必要なくなる。スマホだけでなく、パソコンも同様で、搭載するストレージが激減し、代わりにサブスクリプションでオンラインストレージを使うケースが増えるはずだ。今年にはその変化が徐々に見えてくる程度だが、この流れは止められないはずだ。

なお、今年には2画面や折りたたみタイプのスマホやパソコンの登場が予定されているが、これらはヒットしないと考えている。モノ好きな一部ユーザーに評価されるだけにとどまるだろう。実はこれらのコンセプトはだいぶ以前からあった。結局はコストや重量が見合わないのだ。

サムスンが公開した縦に折り畳めるスマホの試作品(右)と横に折り畳めるスマホの試作品(左)

ヒットする機能が見当たらず、スマホは、コモデティー化が加速する1年になるが、5Gで持ちこたえるはずだ。

戸田覚
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。NIKKEI STYLEに「戸田覚の最新デジタル機器レビュー」を連載中。
MONO TRENDY連載記事一覧