官民ファンド、深刻なガバナンス不全(安東泰志)ニューホライズンキャピタル取締役会長

産業革新投資機構は2019年12月、経営陣を刷新したが…(写真は就任会見をする横尾敬介社長)=共同
産業革新投資機構は2019年12月、経営陣を刷新したが…(写真は就任会見をする横尾敬介社長)=共同

政府は2019年12月20日に決めた2020年度予算案で、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)の運営費として財政投融資から約1000億円を投入することを盛り込んだ。JICは運営方針を巡る経済産業省との対立から18年12月に民間出身の取締役が全員辞任して以来ほぼ1年間休業状態にあったが、元みずほ証券社長の横尾敬介氏が新社長に、社外取締役に経団連の会長だった榊原定征氏が就任し、活動を再開した。

一方、農林水産省が所管する農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)は19年度末の累積損失が115億円となる見通しとなり、実質的な廃止方針が決まった。コンテンツ産業やアパレルなどに出資する海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)、海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)、海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)という3つの官民ファンドも累積損失が膨らんでおり、19年度末の累積損失は合計で約350億円になる見通しだ。

官民ファンドは財政投融資を主な原資としてスタートアップ企業や内外の事業などに投資する。民間だけではリスクマネーの供給が不十分になりやすいとの見方から13年ごろから相次ぎ設立され、安倍政権の成長戦略の目玉の一つと位置づけられたが、累積損失は拡大している。こうした不振の最大の要因は官民ファンドのガバナンスが働いていないことにあると筆者は考えている。

厳格な民間ファンドのガバナンス体制

官民ファンドのガバナンスを考える上で参考になるのは、民間資金で運用資金を賄うプライベート・エクイティ(PE)ファンドだろう。PEの運営会社は投資家に対する善管注意義務と忠実義務を負っている。すなわち運営会社は投資家(受益者)の資金を運用しているのであって自らの資金を運用しているわけではないのだから、受益者の利益のみを考えて資金の運用をしなければならないというのが忠実義務だ。金融商品取引法第42条も「金融商品取引業者等は、権利者…(中略)…のため忠実に投資運用業を行わなければならない」「善良な管理者の注意をもつて投資運用業を行わなければならない」と規定している。こうした義務を担保するため、PEファンドは下の図に示すように投資家による厳しいガバナンスを受ける。

運営会社がファンドを募集する際には(1)運営者会社と運用責任者のトラックレコード(過去の投資実績)と信用(2)運営体制・レポーティング体制(3)運営会社や運用責任者による出資、ハードルレート条項、クロウバック条項、利益相反取引禁止条項等による投資家との利害一致(Interest alignment)――などが投資家から厳しく問われ、細かく契約書に規定される。ハードルレート条項とは投資家に一定の利回り(ハードルレート)が出るまで運営会社に成功報酬は支払われないことであり、クロウバック条項とは初期の投資が成功して報酬が出ても、その後に投資で失敗があった場合は成功報酬をその分返還するという条項だ。

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