「日本人らしいフランス料理を作らないとダメとシャペルさんに言われた」と話す三国シェフ

「お前は日本人で、どう逆立ちしてもフランス人にはなれない。だから日本人らしいフランス料理を作らないとダメ」。シャペルさんはそのとき、僕にそう伝えたかったのに違いありません。その言葉を耳にしてから、僕なりのオリジナリティーを出そうと、必死に模索する毎日が続きました。シャペルさんがつづったジャポニゼという言葉はその間に僕なりに重ねた努力を一定程度認め、ねぎらいの言葉だったのかもしれません。

――ページをめくると、シェフと30年来の付き合いという生産者が丹精込めて育てた食材が、料理の写真とともに実に目を引きます。

今でこそ産地に足を運ぶ料理人は増えていますが、僕が若いころはまだ少数派でした。そんな中、シャペルさんは農家と厨房をつなぐ道を発見した料理人の先達の一人だったのです。僕が産地にまで足を運ぶようになったのは、彼に刺激された結果です。

料理人にとって食材は重要なアイテムです。その食材をどんな生産者が手掛けたのか。その人柄や食材誕生までの生育環境などについて、一つひとつ自分の目で確かめてみたいと思うのは自然の流れかもしれません。

ジャポニゼという一冊の本をまとめるため5年間かけて、カメラマンらと一緒に生産者の元を改めて回りました。ニイクラファーム(東京都西東京市)のハーブや清水牧場(長野県松本市)のチーズなど日本にもこんな素晴らしい食材を作っている人たちがいるのだ、ということを世界に発信し、知ってもらいたいと切実な思いがあったからです。

『奇跡のリンゴ』で知られる東北地方のリンゴ生産者、木村秋則さんや「森は海の恋人運動」で教科書にも取り上げられているカキなどの生産者、畠山重篤さんは今でこそすっかり有名人ですが、僕が30年以上前に出会った当時は、「ただのおじさん」という記憶しかありません。